優勝争いの夢は1試合で潰える。セレッソ大阪 VS 鹿島アントラーズ J1第28節

日時 2019年10月6日(日)15:03
試合会場 ヤンマースタジアム長居
試合結果 0-1 鹿島アントラーズ勝利

前節、大阪ダービーに7年ぶりに勝利したセレッソだが、その節で1位から5位のFC東京、鹿島、マリノス、川崎、広島が全て勝ち点を落としたため、セレッソの順位が6位から4位に繰り上がった。更に、1位FC東京とは勝ち点7差、2位鹿島とは6差となり、急遽、この試合である鹿島との直接対決に勝利すれば、ACL圏内はもとより、優勝争いにまで食い込めるかも、という状況になった。
・・・のだが、試合は優勝争いの常連である鹿島に試合巧者ぶりをきっちり見せつけられての敗戦。降って湧いたような優勝争いの夢は1試合で幕となった。

セレッソ大阪フォーメーション
20
メンデス
8
柿谷
25
奥埜
7
水沼
11
ソウザ
5
藤田
14
丸橋
3
木本
22
ヨニッチ
2
松田
21
ジンヒョン

この試合のセレッソ大阪のフォーメーションは、丸橋、ヨニッチ、木本、松田の4バック、ソウザ、藤田の2ボランチ、両SHに柿谷と水沼、2トップに奥埜とメンデスを置く4-4-2。前節ガンバ戦からの変更点は無し。

鹿島アントラーズフォーメーション
15
伊藤
13
中村
8
土居
18
セルジーニョ
41
白崎
6
永木
28
町田
39
犬飼
27
ブエノ
24
伊東
1
スンテ

一方の鹿島アントラーズのフォーメーションは、4バックに町田、犬飼、ブエノ、伊東、2ボランチに白崎と永木、両SHに中村とセルジーニョ、2トップに土居と伊藤を置くこちらも4-4-2。
鹿島は三竿健斗が左ハムストリング、レオ・シルバが右ハムストリングの損傷で、レギュラー格のボランチが2枚不在。そこで、従来は左SHに入ることの多い白崎凌兵をボランチとし、左SHには中村充孝が入った。また、同じくボランチの名古新太郎も別メニュー調整との報道が出ていたが、こちらはベンチ入りしている。

さて、この試合については時系列で起こったことを追っていくよりも、試合のポイントになった点を順番に見て行く、という形を取りたい。ポイントとしては、セレッソの攻撃の形、鹿島の攻撃の形、セレッソの前半と後半の違い、セレッソの交代采配、の4つである。

まずセレッソの攻撃の形についてだが、この試合は相手の鹿島がオーソドックスな4-4-2なので、セレッソの方も、CBの横に1枚選手を落として3バック化して相手の2トップに対して数的優位を作り、両SHはハーフスペース(相手ボランチ、SH、SB、CBの間)に絞らせて、SBが高い位置を取る、という4-4-2相手にポゼッションする際のオーソドックスな形を取っていた。CBの横に落とすのは、両ボランチ(ソウザ、藤田)のどちらかか、右SBの松田。前半は松田を落とす形が多く、後半は藤田を落とす形が多かった。
前半11分には、CBの横に下りたソウザがボールを持って相手2トップの脇のスペースを持ち上がる、というシーンがあった。この時、左SHの柿谷はハーフスペースにポジションを取っていて、鹿島のボランチ永木がそこを気にして柿谷側に絞ると、今度はバイタルのメンデスが空く、という形を作った。そして、ブエノがメンデスを気にして前に出た裏のスペースに柿谷がダッシュ、ソウザからスルーパスが通って、GKスンテと柿谷との1対1、という状況になった。このシーンでは柿谷は股の間を狙い、スンテがそれを読み切ってセーブした。
また前半25分には、松田がCBの横に落ち、藤田が相手の左ボランチ白崎の前でボールを持って、メンデスが白崎の背後のハーフスペースにいる、そのスペースを消すために絞った中村の外側でワイドに張った水沼がフリー、という形を作った。この形から、藤田が水沼に展開、更に水沼がサイド裏に飛び出したメンデスにパス、メンデスが犬飼に付かれながらも中にクロス、奥埜がブエノの前に入って頭で飛び込んだが僅かに触れなかった。
更に前半41分には、鹿島の2トップの前で木本がボールを持ち、2トップの裏にソウザが立っている、という形から、ソウザにパスが出ると予測した永木(この時は白崎が右、永木が左になっていた)が前に出たところを、木本は永木が出たことによって空いたハーフスペースにスルーパス、ここで水沼がボールを受けて、水沼が奥埜に落とし、奥埜が反対側のハーフスペースのメンデスにパス、メンデスがシュートするが枠の左に外れる、というシーンがあった。
前半はセレッソの攻撃がかなり機能し、上記以外にもチャンスを相当数作ったのだが、得点を挙げるには至らなかった。

一方、鹿島の方の攻撃は、縦の奥行きを意識した形が主体。セレッソは前後左右をコンパクトにして守るチームなので、相手のチームは左右のスペースを使ったり、左右に大きくボールを動かして揺さぶったり、という形を取ることが多いのだが、鹿島の狙いはセレッソの守備を「前後に」揺さぶること。3列目や最終ライン、GKからセレッソのDFラインの裏に走った伊藤に浮き球のボールを当て、そのセカンドを2列目が拾う、という形や、スローインがオフサイドを取られないことを利用して、スローインをセレッソのSBの裏に投げ、そこで起点を作る、という形が見られた。特に、この日左SBに入った町田は長身で体幹も強い選手で、彼がその能力を活かしてセレッソのサイドの深い位置に長いスローインを投げるシーンが何度も見られた。
前半5分の鹿島の得点は、ファーに蹴られたCKをこの町田が頭で中に折り返し、中央の犬飼が押し込んだ、というもの。犬飼はちょうどジンヒョン、松田、木本、ヨニッチの中間あたりにポジションを取っていて、町田の折り返しはそこをピンポイントで狙ったという感じではなかったが、町田がジャンプした位置から犬飼の立っていたところまでは7~8メートルぐらい距離があったので、ファーに走りつつ空中に伸び上がりながら、そこに折り返せた、と言う所を褒めるべきなのかなと。CKをゾーンで守っている以上、セカンドボール対応の時に中間ポジションにいる相手選手に運悪くボールが飛んでしまう、ということはどうしても起こり得る。鹿島はそれを嫌ってCKをほぼマンツーマンで守っているが、それはデュエルやフィジカルを評価基準の上位に置いている鹿島だから出来ることである。
そもそもこの日の鹿島のメンバーには伊藤、セルジーニョ、白崎、ブエノ、犬飼、町田と180cm以上が6枚いて、特に町田はハイボールだけなら一般的なSBは勿論、CBと比較しても強い。そう言うチームを相手にCKを簡単に与えてしまうとどうしても危険なシーンを作られてしまう。そして、このCKを与えてしまった流れと言うのは、町田がセレッソのSBの裏にスローインを投げ、それを受けた中村が中に折り返そうとしてソウザがカットしたボールがラインを割る、という流れだった。上述の通り、鹿島はスローインや浮き球でセレッソのDFラインの裏に起点を作る、ということを意識した攻撃だったが、その意識の中には、こうしてCKを取る、という想定も含まれていたと思うので、セレッソの方としてはそれをさせないよう、裏に走った中村をもっと早めに掴まえておくべきだった。
ちなみに、セレッソの方はCKの守備の時、1人はマンツーマンで残りはゾーンという守り方で、前半はソウザをブエノにマンツーマンで付けていたのが、後半は町田に付けるように変わっていた。そちらの方がより脅威だった、ということだと思う。
また、鹿島の方はGKからの長いボールの時も町田を高い位置に上げてそこに合わせることが多く、セレッソの方はそこに水沼が対応すると勝負にならないので、途中からはソウザが競るように形を変えていた。

次に、セレッソの前半と後半の違いについてだが、この試合のスタッツを見ると、前半のセレッソのシュート数が11本だったのに対して、後半は4本。明らかに後半はチャンスを作れなくなった。前半チャンスを作れていたのは、CBの横に落ちる役割を松田が果たすことが多く、ボランチは相手2トップの裏、つまり相手ボランチの前にポジションを取れていたから。セレッソのボランチが鹿島のボランチを引き付けることでハーフスペースの柿谷や水沼、メンデスといった選手がフリーになれていた。一方、後半はCBの横に藤田が落ちる形が多くなり、そうなると相手ボランチの前にはソウザしかいない、ということになって、後半はハーフスペースを殆ど使えなくなった。また、ソウザ1枚になると、単純に右からの攻撃の時も左からの攻撃の時もソウザがサポートに行かなければならず、ソウザにとっては体力的に厳しかったかなと。これらの点については、試合後の藤田のコメントが非常に分かりやすい。

J1 第28節 鹿島戦|試合後の藤田選手コメント

基本的に僕が落ちるプランでやった時に、もちろん僕が落ちることでボランチが1枚になります。ソウザが少し上がって僕が斜め後に入る形が一番圧力をかけられる形で、前半はそれができていたけど、後半はソウザが少し前に行けなくなり、僕もちょっとラインアップが遅くなって、というシーンがあって、うまく相手の背後を取っても後に重たい分、頑張ってフォワードがキープしてくれていましたが、そこに中盤が絡むシーンが前半より減ったのかなと思います。ただ、毎回それをやっても、体力が持たないですし、しっかり回しながら相手を疲れさせて、ギアを上げるところで…という共通理解の質をもう少し上げられたら、もう少し効果的に攻めることができたと思います。今日の後半はちょっと僕たちの運動量も落ちたので、相手からすると前半ほど怖くなかったのかなと思います。その質が今後の課題かなと思います

最後に、セレッソの交代采配について。
この試合では前半35分に、丸橋がFKの守備で町田と競り合った際に脇腹を痛めてしまい、プレー続行が不可能となった。37分にはその丸橋を下げて舩木が投入され、この交代自体はやむを得なかったと思うのだが、これによって左のユニットが柿谷、舩木、ソウザと3人ともポジショナルプレーが余り得意ではない選手になった。例えば後半4分には、柿谷にボールが入った時に舩木はハーフスペースをインナーラップすべきところを外側をオーバーラップしてしまい、ハーフスペースに人がいない、という状態になった。これを見て柿谷がソウザにボールを預け、自身がハーフスペースに入ったのだが、今度はソウザがハーフスペースの外側を回るようにドリブルして外に張った舩木とポジションが被ってしまい、最後は出し処が無くなって自分の背後(外側)にいた舩木にボールを預けて、舩木が何とかクロスを挙げたが、柿谷がニアに走っていなかったのでボールがGKにそのままキャッチされる、というシーンがあった。この3人だとどうしても、そう言うチグハグなプレーが出てくるし、3人のうち一人でも間違ったポジションを取っていると、3人とも間違っているのと同じことになってしまう。2枚目の交代は柿谷を下げて鈴木を入れ、前線が鈴木とメンデスの2トップ、奥埜が左SHとなったが、それよりもっと単純に、柿谷を下げて田中亜土夢でよかったのかなと。センターFW的な選手を増やすよりも、間を取れる選手を増やして、前半のような形をもう一度作る方が鹿島の方は嫌だったと思う。
それと、これは藤田をCBの横に落とす形とも絡むのだが、舩木を入れるのであれば、松田でも藤田でもソウザでもなく、舩木をCB的に振る舞わせるほうが良いのかなと。舩木は丸橋と比べると、ドリブルでの仕掛けよりもパス出しが得意なように見えるので、前に出て行ったり外に張ったりするよりも、後ろからパスを味方に送る方が良い。また、舩木は守備の時に少しサイドに引っ張られる癖があって、ハーフスペースを空けがちなので、そう言う意味でもCB的に、3バックの左、という感じでプレーしたほうが良い。