躍動、エルニーニョ。J1第24節 サガン鳥栖 VS ガンバ大阪

日時 2018年8月26日(日)19:00
試合会場 ベストアメニティスタジアム
試合結果 3-0 サガン鳥栖勝利

試合時点で鳥栖が勝ち点22で16位、ガンバが勝ち点21で17位、と言うことで、この試合は残留を争うチーム同士の直接対決、いわゆる「シックスポインター」と言える試合となった。
タイトルから分かるとおり、この試合ではこれまでリーグ戦ノーゴール(直前の天皇杯で加入後初ゴール)だった鳥栖の補強の目玉、FWフェルナンド・トーレスが1得点2アシストと躍動。同じく新加入の金崎夢生も加入後初ゴールを挙げ、鳥栖が3-0と快勝した。
鳥栖にとってはポイント的にも、残留のキーマン的にも、意義の大きい勝利、逆にガンバ側から見れば、鳥栖が得たものと等価のダメージを被ったと言える敗戦となった。

サガン鳥栖フォーメーション
9
トーレス
40
小野
44
金崎
4
原川
6
福田
36
高橋秀
2
三丸
33
オマリ
3
高橋祐
13
小林
20
権田

この試合のサガン鳥栖のフォーメーションは、フェルナンド・トーレスを1トップに置く4-3-2-1。ただし、この布陣は攻撃の時と守備の時で形が変わるため、その点については後述する。右シャドーの金崎夢生は鹿島アントラーズから、CBのジョアン・オマリはUAEのアル・ナスルから、夏の移籍市場で獲得した選手である。鹿島で10番を付けていた金崎は勿論のこと、CBオマリもドイツ、トルコでプレー経験がある左利きのCBということで、トーレスを含め、鳥栖は夏の移籍市場でセンターラインに大幅なテコ入れをしてきたと言える。なお、オマリはレバノン国籍を持っていることから、アジア枠として登録可能である。

ガンバ大阪フォーメーション
9
アデミウソン
39
渡邉
10
倉田
25
藤本
28
7
遠藤
4
藤春
13
菅沼
5
三浦
14
米倉
1
東口

一方のガンバは、アデミウソンと渡邉千真を2トップに置く4-4-2。渡邉は夏の移籍市場で神戸から、FW長沢駿とのトレードで獲得した選手である。
最終ラインは21節FC東京戦から前節仙台戦までは、三浦を右SBに回し、CBはファビオと菅沼のコンビ、という組み合わせだったが、この試合では三浦をCBに戻し、右SBには米倉を起用。また、左SBには中断期間中に熱中症を患い、さらにグロインペイン症候群で離脱していた藤春がスタメンに復帰した。
FWファン・ウィジョ、SBの初瀬亮はジャカルタで開催中のアジア大会に招集されており不在である(ウィジョはオーバーエイジでの選出)。

さて、鳥栖のフォーメーションの詳細なのだが、同じ4-3-3でも、バルサやアヤックスのようなウィングがワイドに張る形ではなく、トップの下に2シャドーがいる、いわゆるクリスマスツリー型になっている。鳥栖の試合は今シーズン序盤、セレッソとの対戦時に金鳥スタジアムで現地観戦したが、その時は攻守両面でこの形を保っており、原川、福田が通常であればSHが担うサイドの守備を行い、2シャドーは相手ボランチを見る、という形で守っていた。しかし、この試合では守備の時には小野が左SHの位置に下りて4-4-2になる、という形に変わっており、守備の形は以前よりオーソドックスになっていた。ただし、この形は試合中に何度も変わることになる。

試合はガンバがボールを支配し、鳥栖が守ってカウンター、と言う展開。
上述の通り、鳥栖は守備時には4-4-2、つまり原川・高橋秀の2ボランチの形になるのだが、この2人がガンバの遠藤と高にマンツーマン気味に付いて行くので、ボランチ同士の間にギャップができて、後ろにいる方のボランチの脇にスペースが出来る、と言うシーンが何度かあった。ガンバの方はそこをもう少し有効に使いたかったなと。使っていなかったわけではなく、アデミウソンが引いてきたり、高が上がってそのスペースではたく、といったプレーは見せていたが、SHが中に入って使う形がもっと多くあっても良かった。

前半は0-0で折り返して後半。鳥栖の先制ゴールが生まれたのは、後半開始早々の3分だった。
ゴールは小野のミドルシュートが藤春に当たり、GK東口が逆を衝かれてゴールに入った、というもので、ガンバから見るとかなりアンラッキーな失点だった。ただ、藤春は小野のシュートに対してコースを消しに行くというよりは、ちょっと避けるような対応だったので、それだとゴール方向に飛ぶ可能性は上がってしまう。そこは、ビビったというよりも、この距離なら入らないだろう、という意識がJリーグレベルだとあるのだと思う。ペナルティエリア近辺は最早シュートレンジであり、そこからのシュートはエリア内からのシュートと同じように対応しなければならない、という意識にJリーガーもなってほしいし、なるべきだと思う。

更に後半13分、鳥栖は金崎の加入後初ゴールで2点目を奪取。
得点が生まれたのは鳥栖のゴールキックからだった。GKからのボールをトーレスが競り勝って金崎に落とし、金崎が右サイドに開いたトーレスに預けて、トーレスが中央の金崎にリターン、金崎はペナルティエリアのライン際を横移動しながらこのパスを受け、ペナルティアーク付近から左足でシュート。これがファー側のネットに決まった。
トーレスは1点目の小野のゴールでも最初に右サイドで起点になって、そこからボールが逆サイドに展開された後、最後はポストで小野のシュートをお膳立てしており、これでこの試合、2アシスト、2起点となった。
同じく鳴り物入りでJリーグ入りした神戸のイニエスタが早い段階で2ゴールを挙げたことで、トーレスがノーゴールのまま、というのはネガティブに報道されることが多かったのだが、実際にはトーレスはずっと、起点を作る働きはしていて、それだけでもかなり戦力的にはプラスになっている、という印象だった。もちろんコストパフォーマンス的にそれでは足りない、というのは分かるのだが、数字に出ていない=活躍していない、と捉えられるのは少し気の毒な気がしていたので、アシストという数字が付いたのはトーレスにとっても良かったと思う。
ガンバの方は、金崎のシュートに対して、遠藤、高、いずれかはコースに入りたかったなと。最終的には三浦が対応したが、三浦の寄せも少し甘かったと思う。

また、後半の試合の中で、ゴール以外で目を引いたのは鳥栖の守備の部分だった。
上述の通り、前半の鳥栖は守備時4-4-2、攻撃時4-3-2-1という形だったのだが、後半開始からは攻撃も守備も4-3-2-1で、セレッソ戦の時と同じように、原川がサイドまで出て行って守備をするようになっていた。多分、フィッカデンティ監督の中には、小野をSH的にプレーさせたくない、FW的に、中央でプレーさせたい、という考えがあるのだと思う。しかし、押し込まれると結局、中盤3枚では守りきれない、小野が下がって4-4-2にならないと守れない、と言うことになり、徐々に前半と同じような形に戻って行ってしまう。
ということで、2点目を取った後はまた形を変えて、小野が右シャドー、金崎が左シャドーと言う形にして、押し込まれたときは小野を高橋秀の右に落とす、と言うやり方に変えた。

サガン鳥栖、2点目以降の守備の形
9
トーレス
44
金崎
4
原川
40
小野
6
福田
36
高橋秀
2
三丸
33
オマリ
3
高橋祐
8
藤田
20
権田

一方のガンバは、後半21分に藤本を下げて一美を投入。前線は一美を右ウィング、1トップに渡邉、左ウィングにアデミウソンという3トップに変更し、中盤は倉田と高の後ろに遠藤を置く形、つまり4-1-2-3に変更した。更に後半26分には高を下げて高江を、後半31分には渡邉を下げて小野瀬を投入し、1トップが一美、左ウィングがアデミウソン、右ウィングが小野瀬、中盤が倉田と高江、アンカーに遠藤、という並びになった。

ガンバ大阪フォーメーション(後半31分時点)
19
一美
9
アデミウソン
50
小野瀬
10
倉田
29
高江
7
遠藤
4
藤春
13
菅沼
5
三浦
14
米倉
1
東口

ただ結果的に、この采配はあまり効果的ではなかったかなと。前述の通り、鳥栖は守備の時には小野を右ボランチの位置に落としていて、つまりFWの選手がボランチの位置で守備をしている状態だったので、4-1-2-3にするなら、そこに向かって倉田をガンガン仕掛けさせるとか、もしくはもっと思い切って、小野瀬の方を倉田の位置に持ってきて、倉田を右に回すとか、それぐらいやっても良かったのかなと。2点差だったので。

結局、鳥栖は後半36分に小野を下げて安在を投入。ガンバとしてはこれで、守備の穴が見つけにくい状態になってしまった。
安在投入後の鳥栖は、安在を中盤の右に入れた5-3-2なのか、安在を右ボランチに入れた4-4-2なのか、ちょっと判然としなかった。右ワイドにいる福田が最終ラインの高さまで下がって守備をしていたが、それが5バックで守るという意図的なものなのか、単に吸収されていただけなのか、前者だったら5-3-2、後者だったら4-4-2なのだが、多分前者ではないかと思う。

サガン鳥栖フォーメーション(後半36分以降)
9
トーレス
44
金崎
14
高橋義
24
安在
2
三丸
36
高橋秀
6
福田
33
オマリ
3
高橋祐
8
藤田
20
権田

そして後半41分、鳥栖は中盤で奪ったカウンターから、最後は右サイドの福田のクロスにトーレスがダイビングヘッドで合わせて3点目。スコア的にも、時間帯的にも、これで勝負あった、という得点だった。
得点時、トーレスはニア側に動く金崎とクロスする形でガンバDFラインの前を横移動し、最後はCBとSBの間で縦に飛び込んだのだが、こういうクロスへの合わせ方、マークの外し方は、スペインのサッカーでよく見る形である(多分名前がついているのではないかと思う)。金崎のマークを引き連れる動き、福田の「FWとスペースで出会う」ドンピシャのクロス。美しいゴールだった。逆にガンバの方は、金崎の動きに三浦が引っ張られて中央、そしてトーレスを簡単にオープンにしてしまった。完全に集中が切れていたと思う。

さて敗れたガンバだが、3失点のうち2つはペナルティエリア外から。どちらも対応する守備者はいたにもかかわらずやられてしまっていて、守備をしていない訳ではないが足りていない、という状況が、この試合の前から続いている。それは攻撃も同じで、チャンスを作っていない訳ではないが、得点を奪うクォリティには足りていない。最後の違いが作れていない。
金崎の得点シーンとよく似たシーンをガンバの方も迎えていて、倉田に一回、アデミウソンに一回、ペナルティエリア外からのシュートがあったのだが、いずれも枠外だった。倉田とアデミウソンはいずれもコンディションが良くないように見えるのだが、それでも、今のガンバでこの2人は貴重な違いを作れる選手であり、代わりがいない。彼らが悪い、ということよりも、彼らが悪い時に代わりになれる選手がいない、ということが問題なのだと思う。

それと、ガンバは高と遠藤のボランチコンビの時は遠藤が右、高が左という並びになっているが、そこは逆の方が良いのではないだろうか。この日の鳥栖もそうだが、大抵のチームは左サイドが攻撃的、右サイドが守備的というバランスになっている。従って、守る時は右のボランチが相手の左サイドに当たりに行って左のボランチがカバーに回ることが多くなるのだが、遠藤はどちらかというと当たる守備よりもカバーリングや読みを利かせたパスカットに良さがあるボランチで、記憶にある限りでは、代表でもガンバでも左が殆どだったと思う。マテウスがいた時は、マテウスが左利きなので彼が左、遠藤は右、ということだったのだが、高と一緒に使うのであれば遠藤は左の方が良い気がする。遠藤はどの試合でも、かなり周りに声や仕草で指示を出しているのだが、この試合では、その指示を出している間に自分がポジションを取るのが遅れる、というシーンが何回かあった。そういうシーンは、左で使うことで減らすことが出来るのではないかと思う。

また、これらのことを総合して考えると、ガンバはもっとコンディションの良い選手を優先して使って、トランジション勝負のサッカーをする、という方向に変えた方が良い気がする。それは結局長谷川監督時代のサッカーなのだが、選手も変わっていないので、そうなるのは必然でもある。
今年はワールドカップがあったので、代表の当落線上にいた選手、ガンバで言えば倉田、三浦、東口と言った選手はシーズンの序盤に(代表に選ばれるために)コンディションをピークに持ってくる必要があった。そう言う選手はこの時期にコンディションが落ちてくるし、遠藤、アデミウソンあたりも調子が悪そうに見える(アデミウソンは怪我明けなので今後戻ってくるのかもしれないが)。彼らを休ませると、当然それよりもクォリティの落ちる選手を使わざるを得ない訳だが、フレッシュな選手を揃えることでトランジション勝負のサッカーをして、それで少しでも勝ち点を拾う、というのが今は大事なのかなと。涼しくなれば選手のコンディションも戻って来るし、今の状況だと入替戦まで行く可能性があるので、その時に主力が疲労困憊、サブ組は試合経験を積めていない、となるよりは良い。
理想よりも現実を取る決断が必要だと思う。