鳥栖の策は奏功するも最後は裏目に。ガンバ大阪 VS サガン鳥栖 J1第26節

日時 2019年9月14日(土)19:03
試合会場 パナソニックスタジアム吹田
試合結果 1-0 ガンバ大阪勝利

J1第26節、14位ガンバ大阪と16位サガン鳥栖の対戦は、ガンバが勝てば両チームの勝ち点差が4に広がる、一方で鳥栖が勝てば両チームの順位が入れ替わる、と言う中での対戦。シックスポインターである。

ガンバ大阪フォーメーション
18
パトリック
10
倉田
33
宇佐美
8
小野瀬
7
遠藤
15
井手口
4
藤春
19
ヨングォン
5
三浦
27
高尾
1
東口

この試合のガンバ大阪のフォーメーションは、藤春、ヨングォン、三浦、高尾を最終ラインに置く4-2-3-1。ガンバは前節の横浜Fマリノス戦までは3バック(5-3-2)を主体として戦ってきたが、マリノス戦の途中でフォーメーションを4バックに変更。この試合には敗れたものの、その後のルヴァンカップ、ファーストレグとセカンドレグはいずれも4バックで戦い、リーグ戦首位のFC東京を相手にアウェーゴール差で勝ち抜けを決めている。そして、この試合も4バックでスタート。これまでも、21節のヴィッセル神戸戦のように、試合途中に4バックに変更することはあったものの、あくまでもベースは3バックだったガンバだが、ここに来てそのベースが変わったと言うことになる。ただ、そもそもガンバはシーズン当初は4バックでスタートしており、3バックがベースに変わったのは12節のセレッソ戦、大阪ダービーの試合からなので、最初の形に立ち戻ったとみなすこともできる。

サガン鳥栖フォーメーション
44
金崎
39
金森
7
クエンカ
25
ヨンウ
4
原川
6
福田
2
三丸
36
高橋秀
3
高橋祐
5
金井
18
高丘

一方のサガン鳥栖のフォーメーションは、三丸、高橋秀人、高橋祐治、金井の4バック、原川、福田の2ボランチ、クエンカ、アン・ヨンウの両SH、金崎、金森の2トップと言う4-4-2。金森は夏の移籍市場で鹿島からレンタルで獲得した選手である。(鳥栖のCBは同じ姓なので、以降の文章では高橋秀、高橋祐と記載する)
鳥栖は今シーズン、スペイン人のルイス・カレーラス監督の下でスタートしたが、9節を終えた段階で1勝1分7敗と低迷し、10節を現在の監督である金明輝(キム・ミョンヒ)コーチが指揮。その後、カレーラス監督の退任が発表され、正式に金監督体制となった。
鳥栖は監督交代前に落とした勝ち点が祟って下位に低迷しているものの、監督交代後は16試合で勝ち点23と復調気味。入替戦順位にいる鳥栖が勝ち点を稼ぐことで残留のボーダーラインが上がり、今シーズンのJ1は多くのチームが残留争いに巻き込まれる事態となっていて、ガンバもそのうちの一つである。

試合は鳥栖ボールでキックオフ。鳥栖はCB1枚だけを落として、そのCBから前線左サイドにロングボールを送る、というプレーでゲームに入ったのだが、このロングボールを金崎が高尾と競り合って金森に落とし、金森が更にダイレクトでクエンカに落とし、クエンカがペナルティエリア脇まで運んで、ペナルティエリア内に移動した金森にパス、金森が井手口を背負いながらボールを福田に落として、福田がペナルティアーク内からミドルシュート、という流れで、試合開始15秒で鳥栖が決定的なチャンスを迎えた。ガンバはGK東口が素晴らしい反応を見せ、横っ飛びでボールを枠外に弾いたが、決まっていれば試合の流れが大きく変わっていただけに、この東口のセーブは凄く大きなプレーだったと言える。

さて、危うい形で試合に入ったガンバだったが、その後は徐々にガンバがボールを支配するようになって行く。その理由はどちらかと言うと鳥栖側にあって、まず守備面では鳥栖の2トップはガンバのCBには持たせて構わないという守備だったこと、攻撃面では自分たちがボールを奪ったら一気にカウンターに出る、もしくはロングボールを早めに前線に入れる、という形で時間を掛けずに完結させる方針だったこと、この2つが理由だった。
また、21節のヴィッセル神戸戦で4バックになった時のガンバは、CBとボランチが縦関係になったままボールを回そうとして、そこにプレスを掛けられて失点を喫してしまったのだが、この試合ではその点が改善されていて、CBがボールを持った時はボランチの1枚が2CBの間または脇に下りてCBと横関係になることで、ボールを安定して保持できるようになっていた。ただし、このボランチを落とすやり方は必ずやる、というわけではなく、CBがボールを持った時に、出し処が無い、つまっている、となった場合に限り、ヘルプ気味に下りてくる、ボールの逃がし処になる、という感じだった。上述の通り、鳥栖はガンバのCBにはボールを持たせる守備なので、2トップはガンバのCBとボランチの間に立つのが基本。この状態で、CBが味方にボールを付けられそうならボランチは下りてこないのだが、そうでない場合は相手2トップの背後からすっと最終ラインに下りてくる。そして、ボールを捌いたらまたボランチの位置に戻る。
恐らく宮本監督の中では、リスク管理のために、余りボランチの位置を崩したくない、という考えがベースにあるのだと思う(就任直後に遠藤がインタビューか何かで言及していた記憶がある)。しかし、ボランチの位置を崩さずに最終ラインからビルドアップしようとすると、SBにゲームメーカー的な選手やボールを運べる選手を置く必要がある。今のガンバにはそういうタイプのSBがいないので、必要な時だけボランチの位置を崩す、という形になったのではないだろうか。

そして、ボールを保持した時のガンバの選手のポジショニングもある程度決まっていて、まず右SB高尾が大外のレーンの高い位置に張って、右SHの小野瀬がその1つ内側のレーン、相手の左SH、左ボランチ、左SB、左CBの間のハーフスペースに立つ。そして高尾にボールが入ったら、小野瀬が斜め前方、内側から外側に走って縦パスを引き出し、サイド奥で起点を作る。小野瀬が最初からサイドに張っていると高尾が受けるスペースも小野瀬が走り込むスペースもなくなるので、内側のレーンからプレーを始めて大外のレーンに走る、と言うのがミソになっている。
一方、左SHの倉田は中には入らずワイドに張っていて、その分、左SBの藤春は高尾よりは低い位置にポジションを取る。左のハーフスペースを使うのは、このスペースを最も得意とする宇佐美の役割である。ゴール前やや左で受けて、カットインして右足でミドルシュート、という形であったり、ペナルティエリア内の味方(主にパトリック)に一度当てて、リターンを受けてエリア内に侵入、というプレーが宇佐美の真骨頂で、その宇佐美にスペースを与えるために、倉田はなるべく外側でプレーする。ただ、宇佐美がハーフスペースから低い位置、相手2トップの脇まで下がった時は倉田が中に入ってきて宇佐美からの縦パスに覗く、というシーンもあり、また逆に、倉田が相手2トップの脇に下りた時は宇佐美が倉田からの縦パスに覗く、というシーンもあった。この両者と左SBの藤春はガンバの三冠時の主要メンバーなので、お互い分かり合っている、基本ルールは押さえながらも流動的にやれる、という感じだった。

一方、試合は前半15分を過ぎたあたりから、今度は逆に鳥栖がボールを保持する時間が増えて行く。この時間あたりから、序盤は前からどんどんプレスを掛けていたガンバがその強度を落とした一方で、鳥栖の方も攻め急ぐことを止めた。要は両チームともフルスロットルの状態をずっと維持することは出来ないので、少し緩めた結果、鳥栖がボールを持つ時間が増えた。
ただ、鳥栖の方はボールを持たされた時の挙動がおかしい。特に変だったのは右SB金井の動きで、普通のSBがいる位置より中にいることが多い。CBの近くまで寄ってきたり、更に中に進んでガンバの2トップの間あたりまで入って来たり。最近はInverted Fullback(インバーティッド・フルバック)と言って、マンチェスターシティのようにSBが中に入って来る動きを意図的に行うチームもあるが、そうする場合は大抵CBがSBの代わりにワイドに開く。鳥栖の場合は金井が中に入って来てもCBは元のポジションのまま、SHが下りて来ることもないので、右CBから見ると、単純に外にボールを逃がす選択肢が消える。一方、左サイドでも高橋秀がガンバの2トップ脇のスペースにボールを運ぼうとしているのに原川がそのスペースから動かないのでノッキングしてガンバにボールを奪われる、というシーンがあり、鳥栖のビルドアップは明らかに機能不全だった。

また、守備面での鳥栖の問題点はボランチ福田のポジショニングで、彼は主に遠藤を見ているのだが、上述の通りガンバのボランチはCBの間や脇まで下りて行くので、そこに福田が付いて行くと中盤中央の守備が原川1枚になってしまう。そして、それを嫌って福田が中盤に下りると、結局遠藤がフリーになってしまう。ただガンバの方も、福田が空けたスペースでパトリックが受けた時の宇佐美とのコンビネーションがイマイチだったり、そもそも宇佐美が低い位置やサイドまで動き過ぎて前線のターゲットがパトリックだけになってしまったりと、鳥栖の守備の問題点を効果的に衝けていたわけではなかった。

そして、前半の30分ぐらいからは、鳥栖の方は上手く行かない後ろからのビルドアップはやめた。やめたと言うか、繋ごうとしても繋げないので前に蹴っているうちにそれが攻撃の形になることが多かった。前半の鳥栖の大きなチャンスは、試合開始直後のものを除くと2回で、1つは前半30分。上述の原川と金井が中に入って来る問題でビルドアップが詰まってしまい、GKに戻してGKが左サイドに展開、ガンバは宇佐美、パトリックと右SHの小野瀬の3枚でプレスを掛けたので鳥栖から見て左サイドには小野瀬が空けたスペースがあり、ここで三丸がGKからのボールを受けて、ガンバのCBの間に走り込んだ金崎にパス、金崎が上手くトラップ出来ていればゴール前中央で決定的なチャンスだったが、トラップが流れてシュートに至れず、というシーンがあった。そしてもう一つは前半35分で、ガンバのCBヨングォンから倉田へのロングボールを金井が頭で飛び込んでカットし、浮き球になったボールをヨンウがジャンピングヘッドで金森へ、金森もボールを落とすことなく金崎へダイレクトで繋ぐ、という形から、最後は金崎がガンバのDFラインの裏に走った金森へ浮き球のパス、金森がこのパスをダイレクトボレーで狙うが枠の上に外れる、というシーンがあった。
一方でガンバの方の前半最大のチャンスは38分で、鳥栖のボランチ福田がバイタルのスペースを空けて遠藤のマークに出たタイミングで遠藤からバイタルのパトリックにパスが通る、というシーンがあった。ここではパトリックの後ろから宇佐美がフォローに入ったので、パトリックが宇佐美に落とすか、もしくは遠藤が最初から宇佐美に付けて、パトリックが裏に抜ける、という形であればそのままフィニッシュまで行けたと思うのだが、ボールを受けたパトリックがダイレクトで落とさず、宇佐美のいない方向にターンしてしまったのでフィニッシュに至れなかった。しかしその後、パトリックが左サイドの倉田にパス、倉田が中にカットインして、同じく右から中に入って来た小野瀬に当て、小野瀬がペナルティエリア内の宇佐美に当て、宇佐美が外を上がって来た高尾に展開、という形で高尾がペナルティエリア内右にフリーでボールを持ちこんだ。高尾から見てゴールの逆側には最初にドリブルでスイッチを入れた倉田がいて、高尾はそこに山なりのクロスを送ろうとしたのだが、大きくなって倉田の頭上を越えてしまった。倉田は完全にフリーになっていたので、合っていれば1点だった。
このシーンはガンバらしい、人数を掛けてテンポ良くボールが繋がったシーンだったが、その一方で、本来であれば宇佐美とパトリックだけで完結出来ていたはずの攻撃に倉田、小野瀬、高尾まで投入してしまったと捉えることも出来、良し悪しの判断が分かれるシーンだった。

結局前半は両チームともゴールは奪えず、試合は0-0で折り返して後半。やり方を変えてきたのは鳥栖の方だった。
鳥栖は選手交代こそなかったが、中盤の構成を変更。福田をアンカーとし、その前に原川と金森を置く4-1-2-3に変わった。

サガン鳥栖フォーメーション(後半開始時点)
44
金崎
7
クエンカ
25
ヨンウ
4
原川
39
金森
6
福田
2
三丸
36
高橋秀
3
高橋祐
5
金井
18
高丘

また、IH(インサイドハーフ)になった原川と金森の役割は同じではなく、原川の方がどちらかと言うとボランチ的、金森の方がトップ下的、と言うような左右非対称の分担だった。
そして、後半6分に鳥栖は交代カードも切り、右SHのアン・ヨンウを下げてFW小野裕二を投入。小野が金森の位置に入り、金森がヨンウのいた右ウィングの位置に入った。

サガン鳥栖フォーメーション(後半6分時点)
44
金崎
7
クエンカ
39
金森
4
原川
40
小野
6
福田
2
三丸
36
高橋秀
3
高橋祐
5
金井
18
高丘

小野は登録こそFWだがボランチもできる選手で、IH的な役割であれば金森よりも適任である。鳥栖の金監督としては、まず交代カードを切らずに中盤の構成を変え、効果を確認してから実際のカードを切る、と言う段取りで考えていたのかなと。つまり、カードを切ったと言うことは効果が現れたと言うことである。
一番変化したのは鳥栖の前線からの守備。前半は2トップがガンバのCBの前に立つものの、下りてくるガンバのボランチ、特に遠藤を捕まえられずに守備が嵌まらなかった。しかし後半は、トップ下的な金森(小野投入後は小野)が遠藤を見て、原川の方はクエンカと福田の間に立って井手口を見ながら、ハーフスペースにいる小野瀬へのコースを切る、と言うやり方に変わり、これで守備が嵌まるようになった。

ガンバの方は、この鳥栖の守備変更で攻撃が行きづまるようになった。低い位置で失ってしまうシーンこそなかったものの、CBやGKが蹴らされるシーンが増えて行く。そして、鳥栖の方はボールを回収すると手数を掛けずにガンバゴールに迫る。後半2分には、ガンバのCBヨングォンのクリアボールを鳥栖の右SB金井がヘディングで跳ね返してボールが福田に渡り、右SHヨンウが縦に抜けて井手口と藤春を引き付けて中央の金森がフリーに。金森が左のクエンカに展開し、クエンカが右足でカットインしてシュート、GK東口が弾くがボールがこぼれ、ヨングォンがつま先でクリアするもセカンドをヨンウに拾われてまたシュート、三浦の足に当たってボールが枠を外れる、と言うシーンがあった。そして後半19分には、ヨングォンに金森、藤春に金井が連続的にプレスを掛けて福田がボールを回収、ボールが金森に渡り、金森が三浦の前に走った小野にパス、小野が金崎に落として金崎が左足でシュートするがGK東口が弾く、と言うシーンがあった。更に後半21分には、ガンバ陣内右からのスローインの流れで高尾がプレスを受けてボールを失い、ボールを拾った小野がペナルティエリア角に走り込んだ金崎にパス、金崎がトゥーキックでシュートするがニアのポストに跳ね返る、と言うシーンがあった。前半45分間はガンバのシュートが6本、鳥栖のシュートが7本だったのに対して、後半30分までの両チームのシュートはガンバが3本に対して鳥栖は9本。この時間帯は、鳥栖のチャンスが圧倒的に多く、いつ得点が決まってもおかしくない、と言う時間帯だった。

一方、ガンバの方は後半20分に小野瀬を下げてアデミウソンを投入。アデミウソンを左SHに入れ、倉田を小野瀬のいた右SHに回すと、続く26分にはパトリックを下げてFW渡邊千真も投入した。

ガンバ大阪フォーメーション(後半26分時点)
39
渡邊
9
アデミウソン
33
宇佐美
10
倉田
7
遠藤
15
井手口
4
藤春
19
ヨングォン
5
三浦
27
高尾
1
東口

小野瀬とアデミウソンの交代理由については、まずアデミウソンはガンバの攻撃の切り札的な選手なので、当然、勝ち越し点を狙いに行くために、と言うのが一つ。また、小野瀬はこの試合の後半7分にイエローを貰い、累積で次節の大阪ダービーが出場停止となったので、違う選手を試しておきたい、というのがもう一つだったと思う。一方、パトリックと渡邊の交代については、試合後に宮本監督がインタビューで触れている。

試合後、宮本恒靖監督コメント

少し前線で収まるところがなかったので千真を入れたいというところで、そこを期待していましたし、(中略)パトリックに関してはファン ウィジョが抜けたあとの、サイズのあるボールを前で収めてくれたり、裏に抜けるとかいうところを期待していますし、今日の試合に関しても遠藤(保仁)から裏に出るボールを受けるとかいうところのタスクは求めていました。(中略)今日は少しボールが収まらなかったり、ヘディングの競り合いの得意なところで少し後手を踏むというようなシーンもあったので、早めに交代しました。

一方、鳥栖の方は後半35分に原川を下げて豊田を投入。前線を金崎と豊田の2トップとし、中盤は福田と小野の2ボランチ、左SHがクエンカ、右SHが金森と言う4-4-2に変わった。

サガン鳥栖フォーメーション(後半35分時点)
11
豊田
44
金崎
7
クエンカ
39
金森
40
小野
6
福田
2
三丸
36
高橋秀
3
高橋祐
5
金井
18
高丘

この交代は恐らく、後半は前からの守備が嵌まっているので、そこに豊田も加えて、相手の4バックに対して2トップ+両SHでマッチアップを合わせて、更にガンバに圧力を加えよう、と言うものだったと思う。実際、投入後の豊田はガンバのCBやGKに対して何度もスプリントしてプレスを掛けていた。

しかし、結果論的ではあるが、この交代、と言うか前からのプレスの枚数をより増やす、と言う選択は鳥栖にとって悪いほうに働くこととなった。
ガンバの方は、鳥栖が前からのプレスを強めると今まで以上に前線へのロングボールが増えるわけだが、前線はパトリックから渡邊に変わっている。そして、この試合に限って言えば、ロングボールのターゲットとしてはパトリックよりも渡邊のほうが優秀だった。
後半35分、交代直後の豊田がヨングォンにプレスを掛け、ヨングォンが前線にロングボール。これを、鳥栖の左SB金井の前に引いてきた渡邊が頭で藤春に落とし、藤春が左サイドをドリブルで運んで中央の宇佐美に折り返して、宇佐美がバイタルエリアからシュートを放つが枠の左に外れる、と言うシーンがあった。ここで既に予兆はあったと言える。
そして後半38分、今度は豊田がGK東口までプレスを掛け、東口が前線にロングボールを蹴った。ここで、ガンバの方は渡邊が鳥栖のCB高橋祐と競り合い、ボールが中盤の空中に上がった。このボールに対する井手口の反応が速かった。福田、小野に先んじて落下地点に入り、セカンドボールを回収すると、左SHのアデミウソンに展開。鳥栖の方は豊田と共に金森も前からプレスに出ていたので、アデミウソンの周りにはスペースがある。そして、金森が戻りきる前に宇佐美がアデミウソンの外側を回って、鳥栖の左SB金井に対して数的優位を作ると、それによって出来た一瞬の間合いを利用してアデミウソンが左足でクロス。このクロスに走り込んだ渡邊は、ボールの軌道に合わせてファー側に流れながらジャンプ、頭でボールを捉えてゴールネットに叩き込んだ。
恐らく、鳥栖のCB高橋秀とGK高丘は、渡邊がもっと中央寄りで合わせると思ったのではないだろうか。高橋秀は自分の背後に逃げた渡邊を完全にフリーでジャンプさせてしまったし、高丘も中央寄りにポジションを取ってしまったことで、渡邊のヘディングシュートに対して手が届かなかった。逆に言うと、ゴール中央に向かいながらシュートを撃つよりも、外側に逃げながら撃つほうが難易度は当然高いわけで、それをしっかり枠に飛ばした渡邊の個人技が光った、とも言えるゴールだった。

結局、このゴールが決勝点となり、試合は1-0、ガンバの勝利で幕を閉じた。
鳥栖の方は、前からのプレスの枚数を増やしたことで、逆にロングボールでやられてしまった、前線を増やしたことで削った中盤でセカンドを井手口に拾われた、と言う点で、皮肉な結果になってしまった。ただ、前線の個々の選手のポテンシャルはやはり高いので、残留の可能性はまだ十分にあると思う。特に左SHのクエンカは別格で、ボールを持つと必ず1枚は剥がしてくれる。鳥栖は金崎や金森から逆算して攻撃を考えるよりも、クエンカの攻撃のポテンシャルをどうやって最大化するか、と言う所から逆算して攻撃を考えたほうが良いのではないだろうか。そしてそこから考えると、この試合の途中からそうしたように4-1-2-3の方が、IHがクエンカの守備負担を肩代わりできるので良いと思う。

一方のガンバだが、この試合の次は大阪ダービーと言う所で、攻撃のキーマンである小野瀬を累積で欠くこととなった。代役は恐らく、この試合の後半37分からピッチにはいったバスク人MF、マルケル・スサエタである。ビルバオ一筋でスペイン代表にも招集されたことのある選手だが、この試合では出場時間が短かったこともあり、どの程度フィットしているのかは未知数である。小野瀬の攻守に渡る奮闘はガンバのサッカーに大きく寄与していただけに、スサエタへの要求も、相応に大きなものとなる。