2018年最後の更新ということで、今回は、2018年のセレッソのサッカーを見た中で、来シーズンの課題と考えられる部分について書くことにしたい。
先に結論を書くと、現時点でのセレッソのサッカーの課題は、下記の3つだと考えている。
- 攻撃時にハーフスペースを有効に使えていない。
- 守備時にハーフスペースを上手く守れていない。
- 守備時にGKとそれ以外の選手のゴールカバーの役割分担が整理されていない。
上記3つについて、セレッソのリーグ戦最後の3試合、川崎戦、柏戦、マリノス戦のシーンを取り上げたい。
まず1つ目の「攻撃時にハーフスペースを有効に使えていない」という点についてだが、川崎戦の水沼のポジショニングからその点を見てみたい。
下記の画像は川崎戦の前半30分、セレッソの右CBヨニッチにボールが渡ったシーンである。セレッソは右方向に攻めている。
画像内に水沼は写っていないのだが、画像で言う右下の枠外、ピッチ上で言うと右サイド前方の開いた位置にいる。ヨニッチから一番近いパスコースは右SBの松田だが、水沼が右サイド高い位置(つまり川崎のSBの近く)にいるため、川崎の左SHとしては、水沼の対応をSBに任せて、思い切って松田にアタックに行ける状況になっている。また、松田を孤立させないためにソウザが松田の方に走っているが、ソウザには川崎のFWが付いて来ているため、結果的に松田の周りのスペースがより狭くなっている。
このシーンでは水沼が川崎のボランチの脇のスペースに下りるべきで、そうすると川崎のSHはボランチとの間を埋めるために中に絞る必要があり、結果的に松田の前のスペースが空く。
上のシーンの2秒後。水沼が右下に写っている。
松田から水沼へのパスコースがかなり限定されており、水沼は縦パスを後ろ向きに受けるしかない状況になっている。パスが出ても、川崎のSBにインターセプトされる可能性が非常に高い。また、松田自身も川崎のSHとFWに寄せられている。
次は前半38分のシーン。
30分のシーンとほぼ同じで、水沼は写っていないが、右サイドのワイドな位置にいるため、川崎のSHが思い切って松田にプレスを掛けている。
ボールを円滑に回すためには相手のボランチとSHの間、そしてCBとSBの間にあるハーフスペースをいかに使うかが重要になるが、上記のシーンではそのスペースに水沼が入らないため、ボール回しが窮屈になっている。
ただ、セレッソのサッカーで常にそれが起こっていたか、と言うとそうではなく、この試合の左SHは田中亜土夢だったが、彼はハーフスペースにポジションを取って左SB丸橋に対してスペースを作る、というポジショニングをしており、この試合のセレッソの先制点は、彼のアシストから杉本のゴール、という形で生まれている。また、次の試合の柏戦では、水沼はハーフスペースへのポジショニングを積極的に行っていた。
ただ、水沼の場合はどうしても、ワイドに構えて右足でクロス、という形を得意としているので、中に入ると窮屈なプレーになる。水沼の位置に左利きのウィングプレーヤーを置けば、より右サイドのハーフスペースを有効に使えたと思うのだが、今シーズンのセレッソにそう言うプレーヤーはいなかった。また、水沼をワイドに張らせて、SBにハーフスペースを使わせる(インナーラップさせる)という選択肢もあるが、そう言う形は見られなかった。
また、左サイドについては、ハーフスペースでプレーするのが得意な選手として田中亜土夢、清武、柿谷という選手がおり、ワイドに張った位置からのドリブル突破が得意な選手としては高木がいて、右サイドと比べると使い分けがしやすい編成だったのだが、余り整理できなかった、という感じで、柏戦では清武が後ろまで下りてきてしまい、ハーフスペースに人がいない、または、そこにFWが下りてくるが今度はゴール前に人がいない、というシーンが散見された。
次に、「守備時にハーフスペースを上手く守れていない」という点について。
ユンジョンファン監督が指揮するようになってからのセレッソは、基本的にゾーンで守るチームだったのだが、サイドの守備に関しては、ゾーン的に守る場合とマンツーマン的に守る場合があり、SHに入る選手によってそれが変わる、という感じだった。具体的に言うと、清武、柿谷、田中亜土夢がSHに入った時はゾーン的に守り、水沼、高木、福満が入った時はマンツーマン的に守っていた。前者の3名は欧州でのプレー経験がある選手だが、もしかすると、そう言う選手はゾーンでの守備に慣れているので、彼らにはゾーンで守らせる、そうでない選手はマンツーマンで守らせる、やり方を変えたい場合は人を代える、と言う形で使い分けていたのかもしれない。
ただ、マンツーマン的に守っている時のセレッソのSHは、自陣ハーフスペースに入って来る相手の選手を放してしまうことが多く、そこからピンチを迎えることが多かった。
下の画像は川崎戦の前半4分のシーン。
川崎の方はトップ下の中村憲剛が左サイドに開き、その内側のハーフスペースを左SBの車屋がインナーラップしているが、車屋を水沼が放してしまっており、車屋に対応するためにヨニッチが中央から釣り出されてピンチになった。
次に柏戦の後半12分のシーン。
このシーンでは、ゾーン的に守るのであれば清武が伊藤に付いて行ってハーフスペースを埋め、外を上がってくる柏のSBに対しては丸橋に対応させるべきなのだが、清武は伊藤に付くように丸橋に指示していて、つまり相手SBに対してはSHである自分が、相手SHに対してはSBである丸橋が付く、というマンツーマン的な守り方で対応しようとしている。
しかし、丸橋からすると外から中への対応になるため、伊藤に対して後手になってしまう。結果、伊藤から江坂へのアシストを許してしまった。
最後にマリノス戦の後半5分のシーン。
ハーフスペースに入ったマリノスの仲川を水沼、ボランチの山口、共に放してしまっている。このシーンではここから仲川がカットインしてシュート、そのこぼれ球を天野に押し込まれてセレッソは失点している。
マンツーマン的に守るのであれば、誰が誰に付くのか、どういう時は受け渡してどういう時は付いて行くのか、細かく決める必要があるが、セレッソはそれが出来ていないことが多かった。そして個人的には、それを突き詰めるよりも、ゾーン的な守り方で統一する方が良いのではないかと思う。つまり、SBがサイドの対応に出る、その時にはSHがハーフスペースに下りる。SHが間に合わない時はボランチが下りて、逆サイドのボランチが絞る。
そして、SB+SHで守る時も、SB+ボランチで守る時も、SBの内側でもう一人の選手が横並びになって、斜め前(ゴール前)へのコースを消す。上述の画像を見れば分かるが、いずれのシーンでもSBとSHの関係が斜めまたは縦になっているので、相手のボールホルダーから見ると、その間にパスを通す、もしくは自分がドリブルで突破するコースが残っている状態である。横並びになることで、そこを締める。ゴール前には人もボールも入れさせない。そう言う守備にするべきだと思う。
最後に、「守備時にGKとそれ以外の選手のゴールカバーの役割分担が整理されていない」という点について。
この点については柏戦で顕著に表れていた。
まず、セレッソの1失点目はペナルティエリア外から柏のボランチ中山雄太にミドルシュートを決められたものだったが、そのシーンの画像が下記になる。
上記のシーンで、CBのヨニッチはマークに付いていた伊東を放してファーサイドに寄っている。つまり、自分はファーサイドのコースを消して、GKジンヒョンにはニアサイドへのシュートを止めさせようとしている。しかし、ジンヒョンのポジショニングが中央寄りだったため、中山のニアサイドへのシュートを止めることが出来なかった(中山のシュートが素晴らしかったのは勿論あるが)。
次に2失点目のシーン。上述の、伊東のマークを清武から丸橋へ受け渡したところからピンチになったシーンの直後だが、伊東からパスを受けた江坂がシュートを撃った。
このシーンでは、セレッソの方は山口がファーサイドのシュートコースを消している。つまり、GKジンヒョンはニアサイドのシュートを警戒すれば良かったのだが、そこに決められてしまった。
次に、3失点目のシーン。
ここでは柏のFWクリスティアーノがシュートを撃ち、山口がそれに対して滑り込んでいるが、滑ったことで身体が倒れ、ファー側の上のコースが残ってしまい、そこにシュートを決められた。滑り込まず、身体を寄せて、ファー側に腰を回させないように対応し、ニア側をGKに任せるべきだったと思う。
逆に柏の方は、後半25分のシーンでソウザのミドルシュートをGK中村とフィールドプレーヤーの連携で防いでいる。
画像はソウザのシュートシーンを背後から見たものだが、ソウザのマークに付いた山崎とCBの選手でファー側のコースを消している。
そして、GK中村のポジションがしっかりニアに寄っているので、シュートを弾き出すことが出来た。
セレッソの方は、フィールドプレーヤーが残している方のコースに対してGKが準備できていなかったり、逆に、フィールドプレーヤーの方が飛び込んだことでGKを守りにくくさせてしまったりと、ゴールカバーの分担が出来ていない。この点が3つ目の課題である。
最後にもう一度、セレッソの課題についてまとめたい。
- 攻撃時にハーフスペースを有効に使えていない。
- 守備時にハーフスペースを上手く守れていない。
- 守備時にGKとそれ以外の選手のゴールカバーの役割分担が整理されていない。
上記はいずれも、ざっくりと言えばポジショニングの問題ということになると思う。既にユンジョンファン監督の後任として、ヴェルディを率いていたロティーナ監督の就任が決定しているが、ポジショニングの整備、という点では適任の監督であると思うので、期待したい。