元日の埼玉へ。天皇杯準決勝 ヴィッセル神戸 VS セレッソ大阪

日時 2017年12月23日(土)13:04
試合会場 ヤンマースタジアム長居
試合結果 1-3 セレッソ大阪勝利

セレッソの今シーズンの残り試合は、最大で2つ。それはすなわち、この試合、天皇杯準決勝と、それに勝利した場合にのみ戦うことができる天皇杯のファイナルである。
セレッソにとってこの天皇杯は、タイトルを目指す戦いであると同時に、ACL(アジアチャンピオンズリーグ)のストレートインを目指す戦いでもある。セレッソは既にリーグ戦3位となってACLプレーオフの出場権は確保しているが、ストレートインの場合のグループリーグ初戦が来年2月中旬であるのに対して、プレーオフは1月30日。つまり、プレーオフに回ってしまった場合はオフが殆ど取れなくなってしまう。よって、セレッソにとって天皇杯は、単なるタイトルに留まらず、来シーズンを良好なコンディションで迎えられるかどうかを左右する要素でもある。

セレッソ大阪フォーメーション
24
山村
46
清武
17
福満
16
水沼
6
ソウザ
26
秋山
14
丸橋
15
木本
22
ヨニッチ
2
松田
21
ジンヒョン

この試合のセレッソのフォーメーションは4-2-3-1。
現在のセレッソには怪我人が多数出ており、FWの杉本は左足関節関節内遊離体の手術で今季の残り試合は出場できず、FW澤上、ボランチの山口も負傷でこの試合は欠場。FWの柿谷も左足の痛みでベンチスタートとなっており、更に、FWリカルド・サントスは累積で欠場。結果、ボランチ山口の穴は秋山で埋める、それより更に欠員の多い前線については、本来ボランチやトップ下を務める山村をワントップに、その下に福満を置く、という形になった。

ヴィッセル神戸フォーメーション
19
渡邉
15
小林
13
小川
23
松下
14
藤田
16
高橋秀
39
伊野波
3
渡部
5
岩波
6
高橋峻
18
スンギュ

一方の神戸は、ポドルスキが怪我で既にドイツに帰国済みのため、この試合は渡邉千真を1トップ、両ワイドに小林成豪と小川慶治朗を置く4-3-3でスタート。中盤の3枚は基本、前目のIH(インサイドハーフ)の左が松下佳貴、右が藤田直之で、その後ろ、アンカーのところに高橋秀人がいる、という位置関係だったが、後述する中盤の守備の流れの中で、この並びが変わることも度々あった。

この試合の神戸の守備だが、セレッソのボランチにボールが出ると、ボールサイドのIHが前に出てプレッシャーをかける。そして逆サイドのIHとアンカーの選手が横並びになる、つまり4-4-2の形になる。恐らくこの形で、ボランチからのボールを引っ掛ける、もしくはサイドに展開させて、そこでライン際に追い込んで奪う、という形を狙っていたと思う。
一方でセレッソの方は、そうした神戸の守備に対して、中盤での繋ぎは最低限に、どんどん前線にボールを蹴って行く、という形が多かった。これは神戸の守備を嫌がってそうした、もしくは神戸の出方を見てそうした、ということではなく、最初からそうするつもりだった、という感じだった。

神戸の方は、SBが割と人に付いていくのでその裏が空くことが多い。特にセレッソから見て右サイドでそれが顕著で、セレッソの右SHの水沼が引いてくる、それに神戸の左SBの伊野波が付いて行く、その裏のスペースに福満が流れてロングボールの起点になる、というシーンが多かった。
正直、福満はロングボールを収める起点の力がまだ弱いというか、オフサイドだったり、収まらなかったり、収めてもその次のパスでミスしたり、という感じだったので、福満をターゲットとしたロングボールの成功率自体は高いとは言えなかったのだが、セレッソとしては、前半はとにかく失点しないように、ローリスクで、という事だったと思うので、神戸がボールを奪いたいポイントは飛ばして、その裏で攻撃の起点を作る、というゲームプラン自体に迷いは見られなかった。

神戸の方もそれは同じで、中盤では極力手数を掛けないように戦っていた。特にこの試合では、普段パスの散らし役になっているポドルスキもいないので、セレッソのロングボールで自陣に押し込まれた後、ボールを奪い返したら、自分たちもロングボールを蹴って陣地を回復する、という具合で、この試合の前半については両チームとも、一発勝負のトーナメント戦にありがちな、リスクチャレンジを避けた戦い方だった。

そして後半。
この試合では、ハーフタイムの前後に、両チームの監督がインタビューに答える時間があったのだが、神戸、吉田監督の後半開始時のコメントは下記のようなものだった。

後半開始時、神戸 吉田監督のコメント

ある程度狙ってた展開も出たんですけど、もうちょっとカウンターの精度を上げないといけないのと、ちょっと立ち上がりバタバタしたので、とくに左サイドの所の守備がバタバタしたので、その辺はちょっと修正しなければ行けないと思います。
相手も結構ロングボールで押し込んで来るので、そこに、サイドに流れた時に数的不利になってたので、それをどうするかというのと、どこが危険かというのをもうちょっと明確にしました。

左サイドで守備がバタバタした、サイドに流れた時に数的不利になっていた、というのは、上述の、福満がサイドに流れた時のことを指しているのだと思うが、吉田監督としては、そこの守り方を整理することで、もう少し良い形でボールを奪って、カウンターに繋げていきたい、ということだったのだと思う。ただ、結果的に、その狙い通りにはならなかった。

後半のセレッソは、前半と同じく、狙いはまず神戸のサイドの裏のスペースへのロングボールだったのだが、後半は前半と較べて、選手の動きによりバリエーションが見られるようになり、福満がサイドに流れるだけでなく、福満は中に残ったまま、左SHの清武が中央に絞ったポジションから相手SBの裏に流れていく、というプレーであったり、右SH水沼が中に入り、その外にできたスペースに右SBの松田がランニングしてロングボールを受ける、というプレーが見られるようになった。

神戸としては、セレッソのCBがボールを持った時や、ボランチが引いた位置でボールを持った時は前向きにプレスを掛けて、カウンターに繋げたいのだが、そこから出てくるロングボールに対して的を絞り切れないので、プレスに行っても裏返されて背走することになってしまったり、ボールを奪っても味方のポジションが動かされていて次の攻撃に繋げられなかったりと、狙っている形に持って行けない。前半の神戸のシュート数は2本だったが、後半は、43分に藤田が枠外にシュートを放つまで、神戸のシュート数はゼロだった。

一方のセレッソの方も、ロングボールを使って起点を作り、相手を押し下げる、というところまでは良いのだが、そこから先のプレーが中々出てこない。この日の2トップ、福満・山村の2名は、本来的には中盤の選手なので、どうしても、パスを引き出す力、つまり崩しの開始となる縦パスや、DFラインの裏へのラストパスなどを味方から受けるための予備動作や、それを収める力、というところに物足りなさが出てしまう。後半の神戸には43分までシュートが無かったと書いたが、セレッソの方も後半、福満・山村の2トップから放たれたシュートは、16分の福満の枠外シュートのみだった。

ということで、ユンジョンファン監督は後半31分に福満に代えて、怪我で温存していた柿谷を投入。やはり柿谷の方が、相手DFラインと駆け引きして裏のスペースを狙ったり、相手CBとSBの間のスペースで縦パスを受けたり、というFWらしいプレーが出せる。そしてそれはユンジョンファン監督も分かっていて、しかし柿谷の足の具合を考えるとフルで出すのは難しいので、この勝負所で、という判断だったのだと思う。

一方の神戸の方も、後半42分に、左SH小林に代えて、大森を投入。
そして後半44分、殆ど攻撃の形を作れていなかった神戸が、この大森のプレーからゴールを挙げた。

得点シーンでは、大森が神戸から見て左サイドからドリブルで中に入って行って、右足でインスイングのクロスを上げたのだが、このクロスがニアサイドでジャンプしたヨニッチの頭にほんの少しだけ当たり、そのままファーサイドのポストの僅かに内側まで飛んで、ゴールに入ってしまった。
このシーンについては、クロスに対して神戸のFW渡邉がニアサイドに飛び込んでいたので、ヨニッチが触らなければ渡邉が触っていた可能性が高く、そしてGKジンヒョンもそれに備えてニア側にポジションを取らなければいけなかったので、選手のプレーの選択にミスは無かったと思う。出来ればヨニッチはもっと遠くにボールを弾きたかったところだが、インスイングのクロスということで、下がりながらの対応になったため、それも難しかったのかなと。ヨニッチがギリギリ弾けない、渡邉がギリギリ触れそう、そして誰も触らなければそのままファーサイドのネットに入りそう、そういうボールを蹴った大森を褒めるべきなのかもしれない。
ただ、一つだけ気になったのは丸橋の対応で、最後、ボールがネットに入った時、丸橋は逆サイドから中に入って来ていた小川を放してしまっていたので、もしボールがゴールへのコースを外れていたとしても、小川に押し込まれていた可能性が高い。そこはちょっと見逃せないと言うか、結果的にボールがそのまま入ったから丸橋の責任にならなかっただけであり、丸橋はちょくちょく、ボールと逆サイド、特に自分の外側から入ってくる選手をフリーにしてしまう傾向があるので、そこは改善してほしい。

いずれにせよ、神戸が土壇場でゴールを挙げたことで、このままロスタイムを神戸が無失点でしのげば神戸が決勝進出、という状況に。しかし何とセレッソは、失点後の最初のプレーで、同点に追いついてしまった。
時間が無い、ということで、失点後のキックオフからセレッソはCB木本を前線に上げ、山村と共にロングボールのターゲットに。そしてキックオフのボールをヨニッチが受け、ソウザに預けて、ソウザが前線にロングボール。このボールを山村が渡部との競り合いに勝って、神戸DFラインの背後へ。神戸はボールに対してアンカーの高橋秀がカバーに入ろうとしたが、上がっていた木本に前を取られてシュートを打たれそうになったため、GKスンギュが慌てて足でボールをクリアしようとしたが、上手く足に当たらず上に上がってしまい、そのボールを外側から中に入ってきた水沼がジャンピングボレーシュート。ボールは高橋秀の伸ばした足を少しかすめ、ゴールに転がり込んだ。
セレッソとしては、かなりラッキーなゴールだったと思う。スンギュが足ではなく手でボールに向かっていれば、多分ミスなくクリア、もしくはキャッチ出来ていたと思うし、最後のシュートも、高橋秀の足をかすめたことで少し軌道が変わり、ゴールのカバーに入った岩波がクリアしにくいボールになったので、そこも幸運だったなと。

そして延長戦では、前半6分に神戸の藤田がPA内でボールを肘で触ってしまい、ハンド、PKの判定。このPKを柿谷がスンギュに一度は弾かれながらも頭で押し込んで、セレッソがこの試合始めてリードを奪うと、セレッソは山村をCBに下げて3バック(5バック)に。PKを得た段階で、既に秋山がユン監督のところに行って確認していたので、この辺りは選手も慣れてきているな、という感じだった。

セレッソ大阪フォーメーション(延長前半10分時点)
46
清武
8
柿谷
6
ソウザ
16
水沼
14
丸橋
26
秋山
2
松田
15
木本
22
ヨニッチ
24
山村
21
ジンヒョン

そして神戸の方は、この失点を受けて小川と松下を下げ、FWハーフナーと大槻を投入し、2トップになった。

ヴィッセル神戸フォーメーション(延長前半10分時点)
33
大槻
9
ハーフナー
29
大森
19
渡邉
14
藤田
16
高橋秀
39
伊野波
3
渡部
5
岩波
6
高橋峻
18
スンギュ

そしてセレッソの方も、延長前半16分には足を痛めた木本に代えて山下を、さらに延長後半6分には清武を下げ、DF田中裕介を投入。フォーメーションは5-4-1のような形になったが、恐らくその前から、セレッソは2ボランチの形になっていて、延長前半11分ぐらいに、神戸がゴールネットを揺らしたものの、伊野波がオフサイドを取られてノーゴールだった、というシーンのあたりから、セレッソは選手の判断で2ボランチにしていたように見えた。

セレッソ大阪フォーメーション(延長後半6分時点)
8
柿谷
14
丸橋
16
水沼
6
ソウザ
26
秋山
5
田中
2
松田
23
山下
22
ヨニッチ
24
山村
21
ジンヒョン

この形でセレッソは最後まで神戸に得点を許さず、逆に延長後半9分にはソウザがカウンターからゴールを挙げて、これで試合は決まった。

試合を総括すると、運も味方して、何とか勝てた試合だったなと。
ただ、秋山がこの試合で山口の代役を(苦労しながらも)果たした、という事実は、決勝、そして来シーズンに向けて、大きな収穫だったと思う。これで山村を、トップ下、またはソウザの控え、という位置づけで使える目途がついた。決勝ではFWリカルド・サントスが出場停止から戻ってくるので、柿谷の足の具合が芳しくない場合でも、リカルドと山村、リカルドと福満、という組み合わせが可能だし、澤上が怪我から戻って来られるのであれば更に組み合わせは増える。
ただ、秋山については、戦術的に正しいポジションを取れていても、そこで力を発揮できるかどうか、ボールや相手選手を制することが出来るかどうかは、最終的にはフィジカルであったり、テクニックであったりといった個人の力なので、そこが山口と比べるとまだ足りないと感じる。そしてそれは、柿谷と比較した時の福満についても、同じように感じる。

また、上でも書いたが、やはり失点シーンでの丸橋のプレーは、決勝は勿論、今後もなくしていってほしいなと。
一般的に、守備力のあるSBというと、ボールサイドで相手のウィングとバチバチやり合うような選手をイメージするが、実際には、ボールが逆サイドにある時に味方のCBの背後をカバーするプレーの方が、その選手の守備センスという物が問われやすく、また失点を防ぐ要因にもなりやすい。
丸橋がそこをもう少し上げて、一つレベルの高い守備者になれれば、彼にはまだ、日本代表になるチャンスが残っていると思う。