チャナティップ、敗戦の中でも輝く。J1第20節 セレッソ大阪 VS コンサドーレ札幌

日時 2017年8月5日(土)19:04
試合会場 キンチョウスタジアム
試合結果 3-1 セレッソ大阪勝利

前回のリーグ戦、札幌ホームでの対戦では、1-1の引き分けとなったこのカード。しかし、前回は両チームとも、J2から昇格してきたチームとして、どちらも残留が目標だったのに対して、今回の対戦では、セレッソが暫定首位、札幌の方は14位と、立ち位置が異なっている。
札幌は攻撃のてこ入れとして、夏の移籍市場でジェイ・ボスロイドとタイ代表チャナティップを獲得。残念ながら、前者は故障のため、この試合には帯同できなかったが、彼ら新戦力のプレーにも注目が集まる試合となった。

セレッソ大阪フォーメーション
杉本 リカルド
柿谷 水沼
ソウザ 山口
丸橋 木本 ヨニッチ 田中
キムジンヒョン

セレッソはCBの山下が怪我で欠場中のため、前節ガンバ戦に続き、木本がCBとして先発。加えて今節では、2トップの一角、山村も左足首の怪我で欠場のため、代わりにリカルド・サントスが先発となった。また、右SBは本来レギュラーの松田ではなく、田中裕介を起用。松田はベンチ入りしているので、こちらについては怪我ではなく、戦術上、もしくはコンディションを考慮しての変更だと考えられる。

コンサドーレ札幌フォーメーション
ヘイス
チャナティップ 都倉
マセード
兵藤 荒野
福森 菊地 キムミンテ
金山

一方の札幌は、ヘイスのワントップ、その下にチャナティップと都倉を置く3-4-2-1の布陣。欠場したジェイ・ボスロイドは、復帰すれば都倉、またはヘイスのところで使われるのではないだろうか。
また、GKはレギュラーのクソンユンが累積で出場停止。代わりに金山がゴールマウスを守ることとなった。

試合は開始23秒でいきなりセレッソが先制。
試合は札幌のキックオフから始まったのだが、札幌は一旦ボールをCBまで下げ、そこから前線に上がった都倉にロングボール。これをヨニッチと都倉が競り合い、こぼれたボールを回収したセレッソの右SB田中が、今度は逆に、セレッソの前線のリカルド・サントスに向けてロングボール。このボールをリカルドと福森が競り合い、これは福森が競り勝ったのだが、こぼれ球を水沼がダイレクトにキック。バウンドしたボールを札幌のCBとボランチの間に下りてきた杉本が、裏に走りこむリカルドに落とし、リカルドがそのままシュートを打とうとしたが果たせず、札幌のCBとボランチに挟み込まれてごちゃごちゃした中から杉本のところにボールがこぼれてきて、杉本がこれをシュート、ゴール右隅に決めてゴール、という流れだった。
水沼のキックは恐らくミスキックで、本当は水沼から見て逆サイドの、札幌の3CBの脇のスペースを狙ったと思うのだが、当たり損ねたボールが杉本に渡ったことで、結果的により大きなチャンスになった。
セレッソとしてはラッキーな部分もあって生まれたゴールだったが、最後のところは、杉本が引いてきて、その奥にリカルドが走りこみ、リカルドが相手CBとボランチを奥に引っ張ったことによってできたバイタルのスペースで杉本がシュート、という流れだったので、2トップの良い関係性で生まれたゴール、ということも出来る。

セレッソの方が先制点を奪ったことで、試合は札幌がボールを持つ、それをセレッソが奪ってカウンター、という展開に(そもそも最初からセレッソの方はそういうプランだった可能性もあるが)。
札幌の方は3バックがボールを持ったところからポゼッションが始まるのだが、セレッソの方はそれに対して杉本とリカルドの2トップがコースを限定していて、そこから札幌のボランチにボールが出ても、山口、ソウザがすぐに潰しに来る、サイドは1枚なのでセレッソのSHとSBに対して数的不利になっている、ということで中々ボールをつなぐことが出来ない。唯一、相手のゾーンの間で受けるのが上手いチャナティップがボールを受けに来た時だけ、ボール回しにテンポが出る、という状態だった。
そして、セレッソの方も奪ったら手数を掛けず、まず札幌の3バックの脇のスペースへ、という形を狙っていたので、札幌がボールを持つ→セレッソがすぐにボールを奪い返す→手数を掛けずに攻撃→シュートで終わる、またはラインを割ってボールデッド、という、あまりボールが回らない展開になって行った。

そして前半24分、セレッソはゴール前でFKを獲得。このFKをソウザが直接決めて2点目が生まれたのだが、このシーンでは札幌のGK金山の立ち位置が少し悪かったのではないだろうか。札幌ゴール前、セレッソから見て左からのFKだったので、右利きのソウザからすると絶好の位置でのFKだったのだが、この時の札幌の壁の作り方は、ニアサイドに7枚、そこからペナルティスポットを隔てて2mぐらい開けたところに1枚、そして、セレッソの方がファーサイドとニアサイドに1枚ずつ選手を立てていたので、それに対するマンマークとして1枚ずつ、という形だった。
そして、FKの瞬間には、ニアサイド側の4人がジャンプして、更にそのジャンプした足元のスペースに1人(菅だったと思う)がスライディングして、絶対にニアサイドは破らせない、という対応だったのだが、ソウザのキックのコースはニアサイドではなく、空けていたペナルティスポット近辺の2mの間、壁の間のコースだった。
通常、壁の間のコースはGKが対応する(逆に言うとGKが対応するから空けている)のだが、FKの瞬間の金山はゴールマウスのちょうど中央にポジションしていて、しかもFKの瞬間に少しニアサイド側に動いてしまったので、壁の間を抜けてファーサイドに至るコースが完全に空いてしまい、FKを防ぐことが出来なかった。壁に入った選手にあそこまでニアサイドを警戒させるのであれば、GKはファー側を警戒すべきで、このシーンはGKのミスだったと思うし、札幌からすると、クソンユンの累積による欠場が、そのまま失点につながってしまったと言える。

更に、この得点のすぐ後の前半26分、セレッソは杉本がヘディングのゴールで加点。これでセレッソの方は、試合序盤で3点のリードとなった。
このシーンは正直、札幌の守備対応が悪くて、丸橋のクロスに対して、キムミンテはコースを消すどころかボールを避けてしまい、更に中央では杉本に対して誰も競らず、そういう守備対応の中で好調の杉本がゴールを奪うのは容易かったと思う。
ただ、この試合の杉本の2つのゴールには少し共通点があって、1つ目のゴールシーンではリカルドが奥に走り、杉本がバイタルに遅れて走りこんでシュートを決めた、というゴールで、2つ目のゴールシーンでは、クロスの落下地点にはソウザが先に入っていて、そこに杉本が遅れて走りこんでヘディング、というゴールだった。また、前節の大阪ダービーでのゴールは、山村が引いてきてヘディングで落としたボールを相手DFラインの裏で受けてシュート、というゴールで、つまり今の杉本は、誰かが奥行きを出したところに後から入ってきてシュート、という形や、逆に誰かが引いてきて出来た裏のスペースに飛び出してシュート、という形、つまり2トップ的な関係性の中でゴールを奪っている、ということが出来る。
したがって、杉本は日本代表への招集も噂されているが、彼を代表で活かしたいのであれば、2トップ的な関係性を構築できる選手を近くに置くべき、ということが出来る。

前半はそのまま、動き無く終了。セレッソは3点のリードを保って、前半を折り返した。

後半、札幌はキムミンテに代わって河合を投入。河合がCBの中央、中央だった菊地が右のCBへ。
後半の札幌はボランチのところで少し動きをつけるようになっていて、荒野がDFラインの近くまで下りてきて、兵藤の方は2シャドーの近くでプレーする、という形や、逆に荒野の方が前に出て行く、という形が多くなっていたが、それでもセレッソの守備を大きく動かすには至らず、前半と同じように、札幌のポゼッションは長く続かない、セレッソが奪い返して速攻、という流れが続いていく。

後半19分、札幌はマセードに代えて小野伸二を投入。兵藤と小野の2ボランチとし、荒野が右のWBへ。

コンサドーレ札幌フォーメーション(後半19分から)
ヘイス
チャナティップ 都倉
荒野
小野 兵藤
福森 河合 菊地
金山

これに対して、セレッソの方は後半29分に柿谷に代えて関口を、35分にはソウザに代えて秋山を投入。
この状態で、後半38分に札幌の1点目が生まれた。
得点はチャナティップの素晴らしいスルーパスからだった。セレッソの方はDFラインと中盤の8枚がゴール前まで下りて、守備の陣形としては整っていたのだが、チャナティップは札幌から見て右側のペナルティエリア角付近でボールを受けると、一つキックフェイントを入れて対面の秋山との距離を空け、そこから秋山と山口、更にその後ろのヨニッチと田中の間を通すスルーパス。ボールと逆サイドからダイアゴナルに走りこんだ菅がこのパスを受けてゴール。

J1第20節 セレッソ大阪 VS コンサドーレ札幌 チャナティップのスルーパス

セレッソの方は、右SBの田中が指示を出して、菅には水沼がマンマーク気味に付いていたのだが、ボールの方に目を取られた隙に背後を取られてしまった。ただ、このシーンは水沼の対応よりも、秋山がもう少しチャナティップに寄せないといけなかった、ということと、田中の立ち位置がヨニッチに対して横並びではなく、少し前に出て斜めになっており、ボールホルダーに対して裏のコースを空けてしまっていたことと、その2つが原因だったと思う。田中が前に出ていたのは、目の前に都倉が立っていたからだと思うが、より危険なのは裏のスペースへのパスなので、まずそこを切る、という対応が必要だった。
ただいずれにせよ、そこを見逃さずにピンポイントでパスを通したチャナティップのプレーは素晴らしかった。

1点を返した札幌だったが、そこから更に試合を動かすことは出来ず、試合は3-1、セレッソの勝利で終了となった。

札幌の方は、やはりチャナティップがかなり目立っていて、間で受けるのが上手い、シュートも左右で強いボールが打てる、そしてこの試合のゴールシーンのように、スルーパスも出せる、ということで、今後の札幌の攻撃は、彼の能力にどこまで上手く依存できるか、という方向性になるのではないだろうか。周りを上手く活かすプレーも出来るので、ジェイ・ボスロイドのような、個の力の高い選手と組み合わせると、より脅威になりそうである。