3バックへの移行は不可逆的

昔から、サッカーのフォーメーションの大きな選択肢として、4バックか、3バックか、という2つの選択肢がある(ここで言う3バックは5バックも包含する)。
ただ、オーソドックスなスタイルとしてサッカー黎明期から定着している4バックに対して、3バックは、一定の期間隆盛が起こるが、その期間を過ぎると沈静化する、という興亡を繰り返してきた。その理由はやはり、ピッチの横幅を均等にカバーする人数としては4枚が理想だからであり、そこをあえて3枚で(もしくは5枚で)という選択は、その時その時の特殊な事情がない限りは行われないから、ということなのだと考えられる。

Jリーグでも、世界のサッカーでも、最近また3バックの隆盛が起こっているが、注意したいのは、4バックから3バックへの移行は不可逆的な面がある、と言うことである。つまり、4バックから3バックには比較的容易に移行できるが、3バックから4バックに戻すのは、3バックだった期間が長ければ長いほど難しくなる、と言うことである。
その一番の理由は、4バックのチームにセンターバック(CB)が3人所属していることは珍しくないが、3バックのチームにサイドバック(SB)が所属していることは殆ど無いからである。3バックを採用するチームでは、サイドにはウィングバック(WB)タイプの選手を置くが、そうした選手はSBが本職の選手と比較して、殆どの場合、攻撃で秀でる反面、守備では劣る。3バックと4バックを併用しているチームや、3バックに移行して間もないチームであれば、SB経験のある選手がWBとして所属していたりもするが、3バック期間が長ければ長いほど、そうしたタイプの選手は需要が少なくなって、WBタイプにスタイルが変わっていくか、淘汰されていく運命にある。

そうした淘汰が進んだチームが、いざ4バックに戻ろうとすると、まずSBの選手がいないので、WBタイプの選手にSBを任せる必要が出てくるが、上述の通り、そういう選手は本職のSBと比べて攻撃で秀でる反面、守備では劣るため、どうしても守備が不安定になる。逆に、4バックのチームが3バックに移行する場合は、SBタイプの選手がWBを勤めることになるため、少なくとも守備に関しては不安がない。この点が、4バックから3バックへの移行が不可逆的である一番の理由である。

また、3バックから4バックに移行するのが難しいもうひとつの理由として、CBが3枚から2枚に減る、と言う点も挙げられる。CBの選手だけに限った場合、慣れの問題を除けば、基本的に4バックよりも3バックのほうが仕事は行いやすい。クロスに対しても3枚で守れるし、ボールサイドのCBが出て行っても、中にはまだ2人残っている。4バックの場合でも、SBが絞って対応したり、ボランチが下りて対応したりと助けては貰えるが、基本的に、ゴール前の危険なエリアは2人だけで守る必要がある。
3バック期間が長い、ということは、3人で守ることに慣れたCBが多い、ということであり、その状態で2CBの状態に戻ると、一つ目に上げた、SBがいない、と言う理由と合わせて、守備の不安定化を引き起こすことになる。

最初に挙げたように、ピッチの横幅を均等にカバーする人数としては4枚が理想である。この概念は、サッカーのピッチの広さやゴールの位置、プレーする人数が変わらない限りは、恐らく不変だと考えられる。
つまり、今現在3バックでプレーしているチームも、いつかは4バックに立ち戻る日がやってくる、ということである。その時のシナリオをどれだけ描けているか、というのは、恐らくフロントの手腕が問われるところなのではないだろうか。