45分だけ頑張った試合。J1第17節 セレッソ大阪 VS FC東京

日時 2017年7月2日(日)19:03
試合会場 金鳥スタジアム
試合結果 3-1 セレッソ勝利

2017年のリーグ戦、前半戦最後の試合。セレッソはFC東京をホームに迎えての一戦となった。
結果的には3-1の勝利、ACL参加チームの消化試合数が1試合少ないこともあり、セレッソは暫定とはいえ首位に立つことが出来たのだが、内容としては余り良くなく、引き分け、ないしは敗北していてもおかしくない試合内容だった。

セレッソ大阪フォーメーション
杉本
柿谷 山村 水沼
ソウザ 山口
丸橋 山下 ヨニッチ 松田
キムジンヒョン

セレッソの方は前節清武が負傷離脱したため、そのとき清武に代わって入った水沼宏太が、この試合では右SHのスタメン。右サイドでコンビを組む水沼と松田陸は共に、この試合の対戦相手であるFC東京からの移籍組(水沼はレンタル)である。いずれもFC東京時代には出場機会が得られずセレッソにやってきた、という経緯があるため、この試合にかける意気込みは強い。

FC東京フォーメーション
永井
中島 ウタカ
高萩 橋本
太田 森重 吉本 室屋

対するFC東京の方は、今シーズン獲得したピーター・ウタカをトップ下に、同じく新加入の永井謙佑をワントップに置く4-2-3-1。本来スタメンである大久保嘉人は、ケガにより離脱している。

東京の方の攻撃は、トップ下のウタカが最前線から中盤まで幅広く動きまわる、1トップの永井はスピードで裏を狙う、ということが決まっているぐらいで、遅攻の場合はウタカを攻撃の基準点に、速攻の場合は永井を基準点に、という以外は、決められたパターンよりも、個々の選手のアドリブ要素が強い。
ただ、ウタカは昔のセレッソで言うとファビオ・シンプリシオ、もっと前で言うと西澤明訓のような存在の選手で、そういう、キープできて、気の利いたプレーも出来て、得点も取れる、という選手がいると、攻撃はアドリブ主体であってもある程度機能する。また、ウタカ以外の前線の選手も、上述の永井のほか、中島、東といったフル代表、年代別代表レベルの選手なので、そういう選手たちがウタカのプレーと絡んで個人技を発揮すると、それだけで1点になる。

一方、そういう東京の攻撃に対して、セレッソの守備、という話なのだが、この試合の前半のセレッソの守備はどこかフワっとしていて、複数の選手が、チームとしての規律は守っているものの、ただそれだけ、というプレーをしていた。
まず全体的に、ボールホルダーに対するファーストディフェンダーの守備が甘く、プレッシャーに行っているがプレッシャーになっていない、守備対応している筈なのにそこから良いボールを入れられてしまう、というシーンが散見された。
また、もう少し細かいところで言うと、ソウザが左SBの丸橋の裏のスペースのボールについて行って、本来ボランチが埋めるSBとCBの間のスペースが空いてしまう、というシーンがあり、それは左SHの柿谷がちょっと動けば埋められるのに、それをしない。柿谷とすればそこは山村が下りてきて埋めることになっているので、ということなのかもしれないが、山村の戻りが遅れている場合は自分が埋めて、山村が帰陣すればもう一度ポジションに戻ればいいだけであり、そういう細かい部分の判断をせず、ただ規律を守る、というプレーだと、守備は機能しない。
ゾーンディフェンスは基本的に、ボールに一番近い選手以外はスペースを埋めているだけなので、そこに気持ちや判断が入っていないと、「ただ立っているだけ」になる。逆に、気持ちや判断が入っていれば、相手に対して「どこに出しても囲まれそう」というプレッシャーを与えることが出来るのだが、残念ながらこの日のセレッソの前半の守備は、後者ではなかった。

試合は前半21分に、FC東京がピーター・ウタカのゴールで先制。このシーン、セレッソは全体的に前がかりになっていたのだが、東京の右SB室屋からのクリア気味のボールが永井に渡った時に山下が一発で取りに行ってしまい、逆に入れ替わられてしまった、というのが全てだった。東京は前線にウタカと永井が残っており、それに対してセレッソはヨニッチと山下、そして(セレッソはボールと逆サイドのSBは残すので)左SBの丸橋、合計3枚が残っていた。ただ、丸橋はCBの2枚に対して少しだけ前に出ていたので、山下は丸橋がカバーに戻る時間を作ってからアタックに行くべきだったのだが、上述のように入れ替わられてしまい、そうなるとヨニッチとしては、カバーもいない状況でウタカと永井に対して背走しながらスピード勝負をしないといけない、それだと絶対勝てない、ということで、永井にイチかバチかのスライディング、そしてこれも躱されてしまい、完全に2枚ともフリーになった状態で永井がゴール前にドリブル、最後は永井がウタカにパスし、このパスでGKジンヒョンも外して、ウタカがゴールゲット。
山下はシーズン前半戦だけで、神戸戦での渡邉千真、清水戦での鄭大世、そしてこの試合での永井と、3つ、対人プレーでやられているので、そこはシーズン後半戦に向けた、大きな宿題だと思う。

リードを奪われたセレッソだったが、FC東京の守備があまり機能していないこともあり、攻撃面ではチャンスは作れていた。
また、FC東京の方は前半終了間際に森重が負傷離脱してしまい、そこも、この試合の行方に影響を与えた要因だったと思う。

後半、セレッソは明らかにギアを入れ直してきて、ボールにアプローチする位置も高くなった。そうなると、攻撃では前半以上にチャンスを作れるようになる反面、守備では、前半の失点シーンと同じように、永井を起点としたカウンターを食らってしまう、という恐れもあったわけだが、結果的に、その攻撃的になった時間帯でセレッソの方が2点取れた、逆に、FC東京のカウンターから失点しなかった、というのがこの試合の結果を分けたと思う。永井がほぼフリーになってループシュートを打ったが枠の上に外れた、というシーンもあったので、この時間帯の攻防はかなり、紙一重だったと思う。永井のシュートが入っていれば、セレッソのシュートをFC東京のGK林が止められていれば、そして、前半の森重の怪我により、FC東京のラインコントロールは少しあやふやになっていたので、彼の怪我がなければ、結果は逆だった可能性もある。

この時間帯のセレッソの2得点は、いずれも元FC東京の水沼、そして松田のプレーから。1点目は水沼の速さ、高さともに申し分ないクロスから、杉本がヘディングでゴール。
そして2点目は、FC東京のCKを防いだところからのカウンターで、1点目と同じく水沼から、相手SBの裏のスペースに飛び出した松田に絶妙なパスが出て、松田がGK林のニアを抜いてゴール。

試合後、松田陸のコメント

宏太くんから良いボールが来ました。あの一瞬だけ時間ができたので、意外と冷静になれました。宏太くんからもらって、中を見たんですけど、あまり誰もいなかったので、シュートに切り替えました。最初は股を狙おうと思ったんですけど、「空いていない」と思って、脇を狙いました。打ったら入ったので、良かったです。

松田のゴールシーンは、シュートまでに2つの判断があり、まず中を見て、いなかったのでシュートに切り替えた、というのが1つめの判断。次にGKの股下を見て、そこも空いていなかったのでやめた、というのが2つ目の判断。
最終的にはニアサイド、林の左手の下を通してゴールを決めたのだが、その前の一つ一つの判断というのは全部、林から見るとフェイントになっていて、サッカーではそういう、「本当に実行しようとしていたがやめた」というプレーの方が、最初から相手の裏をかくつもりで行ったプレーよりも、フェイントとして効果が大きかったりする。
つまり、相手の裏をかくために重要なのは、複雑なフェイントを駆使することではなく、いつでもプレーを変えられるような体勢、ボールの置き所、そしてメンタルを保つことであり、また、そういう状態、いつでもプレーを変えられるような体勢、ボールの置き所、そしてメンタルを保つためには、そういうボールが味方から回ってくることも大切で、このシーンの水沼のパス、松田が色々な判断をできるぐらいの遅さで、かつ、守備側の選手が寄せ切れない程度には速い、コースも、松田がヘッドダウンしてしまわない程度にはスペースに、しかし、GKが出て処理できない程度には足元に、というパスは、まさにそれだった。
水沼からの良いパス、そしてそれを活かした松田の良い判断。FC東京からセレッソに移籍した2人の選手の良いプレーが繋がって、セレッソの2点目のゴールは生まれたと言える。

逆転されたことを受け、FC東京の篠田監督は中島を下げ、阿部拓馬を投入。投入された阿部が指を三本立てていたので、多分3バックに移行、ということだったと思う。

FC東京フォーメーション(後半23分から)
永井
阿部 ウタカ
太田 室屋
高萩
丸山 吉本 橋本

これを見てすぐにユンジョンファン監督も山村を下げて3バックに。マッチアップを合わせる意味もあったと思うが、そもそも後半始まって以降はずっと、カウンターのリスクを孕んだままイケイケになっていたので、少しブレーキを掛けたかった、というのもあると思う。

ただその後、FC東京の方はいつの間にか4バックに。多分後半33分に前田を投入する直前ぐらいに4バックに戻したのではないかと思うが、もしかするとセレッソがすぐに対応したのを見て戻した、ということだったのかもしれない。

FC東京フォーメーション(後半33分以降)
前田
阿部 ウタカ 永井
高萩 橋本
太田 丸山 吉本 室屋

ユンジョンファン監督は、この変更には合わせず、そのまま3バックを保持。後半38分にはカウンターからソウザがミドルシュートで3点目を奪い、これで試合は決まった。

際どい試合だったが、こういう際どい試合にしないことも出来たはず、という試合だった。
FC東京は守備の部分で幾つか穴があって、一つは、SBが守備で孤立するシーンが多い、ということ。例えば太田が水沼の対応に出て行ったときに、トップ下の山村が太田のサイドに流れていくと、そこを誰も見ていないので、数的不利になってしまう。
もう一つは、自分たちのCKや相手ゴール前でのセットプレーが終わった後の守備の準備が悪かったり、遅かったりするということ。
セレッソの2点目と3点目はいずれもFC東京のCKからのカウンターだったので、後者の穴は衝くことが出来たが、前者の穴についても、もっと有効に使えたのではないだろうか。

ということで、セレッソとしては首位に立つことは出来たものの、首位にふさわしいサッカーでその位置を手に入れたか、というとそうではなかったので、シーズン後半戦に向けて、まだまだ課題はある、ということが見えた一戦だった。

試合後、ユンジョンファン監督のコメント

サッカーは90分ですが、今日は45分だけしっかりやったという気分です。前半は、僕らが考えていた、やろうとしていたことが出ませんでした。ほとんどできなかったと思います。後半に入る前に気持ちを切り替えて、やろうとする意欲がグラウンドで表現できたと思います。やろうとする意欲、そして勝とうとする熱い姿を表現できたと思います。