組織の課題、個人の課題。ワールドカップ欧州予選 スコットランド代表 VS イングランド代表

日時 2017年6月10日(土)17:00※現地時間
試合会場 ハムデン・パーク
試合結果 2-2 引き分け

スコットランド代表とイングランド代表の試合というのは、サッカーにおける世界最古の国際試合だそうで。歴史的、政治的にも色々な因縁がある両者なので、この試合を見ていても、単なる予選の中の一試合ではないという雰囲気、選手の気合、というものが随所に感じられた。

イングランド代表フォーメーション
ケイン
ララーナ アリ ラシュフォード
ダイアー リバモア
バートランド スモーリング ケーヒル ウォーカー
ハート

イングランドの方は、基本4-2-3-1で、攻撃の時にはリバモアを上げ、ダイアーを中盤の底に残した4-1-2-3の形になる。
まず攻撃陣に関しては、トップのケイン、トップ下のデレ・アリについては自チームでやっているポジションと同じなので問題ないとして、左SHのララーナ、右SHのラシュフォードについては余り良さを出せていなかった。
ラシュフォードについては、「UEFAヨーロッパリーグ決勝 アヤックス VS マンチェスターユナイテッド」で書いたとおり、シーズン最後の試合でもパフォーマンスは良くなかったので、単純にコンディションの問題というのが一つと、もう一つは左SHではなく右SHだったので、カットインして右足でシュート、という形が作りにくかったという部分もあったと思う。右SHに関しては本職のスターリングがおり、またFW的な選手を起用したかったのであれば、ユナイテッドでは右SHを務めることが多いリンガードもいたので、そのどちらかの方が良かったのではないだろうか。
また、ララーナに関しては、やはり中央で使って始めてその真価を発揮できる選手だと思うので、ララーナとデレ・アリを同時に起用したいのであれば、両者をインサイドハーフに置いて、左SHにラシュフォード、右SHにスターリングまたはリンガードを置く4-1-2-3の方が良いし、どうしてもSHで起用したい、ということであれば、同サイドのSBを高い位置に上げ、ララーナは中に入る、というほうが良いと思う。

一方、守備に関してだが、残念ながら、こちらもあまり、という感じだった。
イングランドの方は攻撃時、ダイアーがボールの後ろに残っているので、相手ボールになった時には彼が出て行ってファーストディフェンスをするのだが、彼がディフェンスをしている間に、その後ろのカバーに戻る選手がおらず、守備が無駄になってしまうシーンがあったり、ケイン、デレ・アリ、ララーナは前から取りに行くが、後ろが付いてきておらず、前後分断になってしまうシーンがあったり、要は、ボールを奪われた後に誰がどこにポジションを取るかがはっきりしていない、選手個々が周りを見ながら自分の立ち位置を決めている、そんな雰囲気だった。

スコットランド代表フォーメーション
グリフィス
アームストロング スノドグラス アンヤ
モリソン ブラウン
ロバートソン マルグルー ベラ ティアニー
ゴードン

対するスコットランドの方なのだが、こちらの守備はかなり整備されていて、基本フォーメーションは上記のように4-2-3-1なのだが、守備の時には右SHのアンヤがSBの位置まで下り、スノドグラスが右SHのスペースを埋める5-4-1の形になる。

スコットランド代表フォーメーション(守備時)
グリフィス
アームストロング スノドグラス
モリソン ブラウン
ロバートソン アンヤ
マルグルー ベラ ティアニー
ゴードン

有名選手をそろえたイングランド代表に対して、スコットランドの方はそれほどネームバリューのある選手というのはいないのだが、率いているのはかつて中村俊輔がセルティックでプレーしていた時の監督、ゴードン・ストラカンである。
選手個々がバラバラに守備をしているイングランドと較べると、スコットランドのゾーンディフェンスの練度は高く、ボールを中心としてしっかりスペースを埋めることが出来ていた。

前半は、イングランドが攻撃的、スコットランドの方が守備的、というのがはっきりしており、したがってイングランドの守備が脅かされるシーンというのもあまり多くは無かったのだが、前半を0-0で折り返し、後半に入ると、スコットランドの方もプレスの位置を上げてきて、それによってスコットランドボールの時間が増えると、イングランドの守備の問題点も、より顕在化するようになっていった。

しかし、先制点を奪ったのはイングランド。パフォーマンスが悪かったラシュフォードを諦め、後半20分にチェンバレンを投入すると、この采配が当たり、チェンバレンが個人技からゴール。
イングランドから見て右サイド、PA横のスペースでボールを受けて一人を交わすと、PA内で寄せてきた2人もドリブルでかわし、カバーに来たもう一人の選手と最初に交わした2人の選手の間からシュートを決める、という文字通りスーパーゴールだった。スコットランドの方は、最初にPA横でかわされた選手と、PA内の選手の間にスペースが出来てしまっていたので、ポジショニングのミス、というのはあったと思うが、チェンバレンは時々、こういう個人技を爆発させる選手で、それを称えないといけない、というゴールだったと思う。

しかし、スコットランドの方は、後半41分、イングランドPA手前、スコットランドの方から見てやや右寄りの位置でFKを獲得すると、1トップのグリフィスがこれを左足で直接決め、同点。更に3分後、後半44分には、先ほどの位置からもう少し中央寄りの位置で再度FKを獲得。なんとグリフィスがこれもゴールに叩き込み、スコットランドが逆転に成功する。グリフィスのキックは、1回目はキッカーから見てゴール右側、2回目は左側に決めたのだが、いずれも、イングランドが立てた壁の上を通してのもので、スピード、コース共に、素晴らしいFKだった。

試合はこのまま終わるかと思われたが、後半ロスタイム、イングランドは土壇場のゴールで同点。このシーン、スコットランドの方から見ると、自陣ゴール前の相手FKを跳ね返し、カウンター、というところを逆に奪い返されてしまい、上げようとしていたラインの裏、走りこんだケインの右足にボールを合わされて失点、という流れだったので、寧ろカウンターのチャンスが見えていなければ、ずっと押し込まれる展開であれば、なかった失点かもしれず、そこは勝負のアヤになった部分だったかなと。ただ、裏に放り込まれたボール(シュートを決めたケインへのボール)については、GKのゴードンが出て処理できる範囲だったと思うので、あそこは飛び出すべきだったと思う。

ということで、結果は2-2の同点、イングランドの方から見れば、アウェーで引き分けは許容できる結果だったと言える。ただ、やはり気になるのは内容の部分で、攻撃に関しては、ダイアーからケイン、デレ・アリからケインといった、同じチームでプレーしている選手同士の連携主体であっても良いと思うが、守備に関しては、そういう2者間の「線」の関係だけでは不十分で、やはり3~4名での「面」の連携が欲しい、つまりもう少しゾーンディフェンスの練度が欲しい。

この日のイングランドのスタメンの選手は、殆どが所属チームではゾーンディフェンスでプレッシングサッカーをやっている選手ばかりで、例外はウェストブロムウィッチのリバモア、サウサンプトンのバートランドぐらいだと思う。そういう選手たちを集めて、この日のような、個々の判断に委ねてしまう守備や、マンツーマン気味の守備をしてしまうと、守備は勿論、そこからの攻撃についても威力は落ちてしまうし、そういう選手たちを集めて、練度の低いゾーンディフェンスしか構築できない、ということであると、サウスゲイト監督に対して不満の声が上がる、ひいては、またもや外国人監督という選択肢に帰結する、というのは避けられない。イングランドの予選グループはかなり楽なグループなので、今のままでも予選は突破できると思うが、イングランドが目指しているのは、ドイツやスペイン、ブラジルやアルゼンチンに打ち勝ってタイトルを獲得する、ということだと思うので、そこを目指すのであれば、寧ろ予選については結果は二の次に、苦戦を覚悟で守備の構築をどんどん行うべきではないだろうか。

一方のスコットランドだが、守備組織の練度は高いので、あとは攻撃面の連携や個の力。この試合ではグリフィスのFKが武器として上積みされたので、そこは大きな収穫だったと思う。あと、この試合では大きな存在感を放つことはなかったが、ライアン・フレイザーという突進力のあるスーパーサブもいるので、そこも攻撃で期待できる要素かなと。目標は予選グループ2位、プレーオフでのワールドカップ出場だと思うので、重要になるのはFW、CB、GKといった得点、失点に直接関与するポジションの選手のパフォーマンスであったり、そこにどれだけ新しい選手が出てくるか、というところだと思う。

個人的には、この試合でのグリフィスの2発のFKというのは、決めた相手がイングランドのチームだった、決めた選手はセルティック所属のレフティの選手だった、監督がストラカンだった、という背景から、やはり中村俊輔のマンチェスターユナイテッド戦でのFKを思い出さずにはいられず、今後、ワールドカップ予選でスコットランドを応援する理由が出来てしまったな、というFKだった。