ルヴァンカップからの継続性、山村の存在感。J1第13節 ヴィッセル神戸 VS セレッソ大阪

日時 2017年5月28日(日)17:03
試合会場 ノエビアスタジアム神戸
試合結果 1-2 セレッソ大阪勝利

セレッソはこの試合の4日前にもルヴァンカップで神戸と対戦、勝利している。その試合の後の神戸のネルシーニョ監督のコメントは下記の通り。

次の試合に向けて今日の試合は参考にはならないと思います。今日の内容もそうですし、相手もウチもメンバーが違いますので。とにかくJリーグでまた、ウチのホームで彼らと相まみえるときには違うストーリーになると、そういう準備をして試合に臨むつもりです。

ルヴァンカップの時のセレッソのメンバーはその殆どが控え、ないしはU23のメンバーで、神戸の方もニウトン、大森あたりは温存していたので、ネルシーニョ監督のコメントはそこを踏まえてのものだったのだが、実際には、この試合の前半は、ルヴァンカップとかなり似通った展開になった。

ヴィッセル神戸フォーメーション
渡邉千真 小川
大森 中坂
ニウトン 高橋秀人
松下 渡辺 岩波 伊野波
キムスンギュ
セレッソ大阪フォーメーション
杉本
柿谷 山村 清武
山口 ソウザ
丸橋 山下 ヨニッチ 松田
キムジンヒョン

ルヴァンカップでの神戸は、最初ウエスクレイをトップ下に入れる布陣でスタートしたのだが、セレッソの作るブロックの中にボールを運ぶことが殆ど出来なかったので、後半から大森を入れてウエスクレイと大森を両サイドに置き、両者がサイドから中に、セレッソの2ラインの間でボールを受けるようになって、攻撃が活性化した、という流れだった。
この試合では逆に、大森がスタメン、ウエスクレイが控え、という形でスタートしたのだが、セレッソの場合はメンバーが変わっても守備のルールは変わらないので、ルヴァンカップと同じように戦えば、当然同じことが起こる。この試合での大森は余り中に入って行かず、基本サイドでプレーしていて、それだとやはりセレッソのブロックの中で起点が出来ない。
ルヴァンカップでも大森はずっと中に入っていたわけではなく、サイドに出たり、中に入ったり、という出入りをしていたので、彼個人の問題ではなく、彼が中に入るタイミングをチームとして作れなかった、ということかもしれないし、ルヴァンカップではセレッソのボランチが木本と西本という経験の浅いコンビだったのに対して、この試合では山口とソウザだったので、そのカバーエリアの違い、というものもあったかもしれない。
神戸が攻めあぐねる中、セレッソは前半29分に山村がヨニッチのロングフィード一発から裏に抜け出して先制。
攻撃の形が作れない中でビハインドを背負ってしまった、ということで、ネルシーニョ監督は早めに動き、大森を前半36分で交替。ウエスクレイを投入してトップ下に配置し、小川を左SHに回した。
小川ではなく大森を替えた理由は、大森自身のプレーに問題がある、と判断されたのか、それとも、トップ下を入れたいが、小川はルヴァンカップでは完全に休ませていたので、この試合ではピッチに残しておきたかったのか、どちらだろうか。いずれにせよ、この交替でウエスクレイがセレッソの2ラインの間を自由に動き回るようになり、それによって神戸の方は、セレッソのブロックの中で起点が出来るようになった。

神戸が攻めあぐねる、セレッソが先制する、交代により神戸の攻撃が活性化する、という流れはルヴァンカップの流れと同じ。違っていたのはこの後の流れだった。
ルヴァンカップの時のセレッソは、活性化した神戸の攻撃に対して、5バックにすることで中盤より後ろのスペースを消して対応したのだが、その時は神戸の交代が後半だったし、セレッソの方は控え組中心だったので相対的に相手の方が格上であり、守備的な采配を選択しやすかった、ということもあった。しかし、この試合では神戸の交代は前半であり、セレッソの方も主力で臨んでいる、ということで、守備的な戦術変更はせず、という判断だったのだが、前半39分、神戸は渡邉千真が同点弾。高橋秀人のヘディングでの落としを、セレッソのCB山下を半身でブロックしながらシュート、ニアサイドに叩き込んだ。
セレッソとしては、ひとつ前の守備で、山下のカバーに入るはずの左SB丸橋が前に出てしまっていて、局面で山下と渡邉が一対一になってしまったのが失点の一つの要因だったのだが、とは言え、山下個人だけでも守備力は非常に高く、そこを制してゴールまで持って行ったという意味で、渡邉の個の力が炸裂したシーンだった。
前半はそのまま1対1で終了。出だしはセレッソのペース、しかし、前半のうちに躊躇なく動いたネルシーニョ監督の采配が当たった、セレッソの方はそれに対して後手を踏んでしまった、そういう前半だった。

ただし、見方を変えるとセレッソの方は、やり方を変えなかった分、余力を残して前半を終えた、神戸の方は、左鎖骨骨折から復帰したばかりの小川をピッチに残した状態で、前半のうちに交代カードを1枚切ってしまった、とも言え、そこは後半の戦いに影響を与えたように思う。
後半14分、セレッソのユンジョンファン監督は運動量の落ちていた左SHの柿谷に替えて水沼を投入。清武を左に回し、水沼を右SHへ。この采配が的中し、後半19分、山村が左サイドから上げたクロスを、水沼が右サイドでダイレクトボレー、キムスンギュの守る神戸ゴールのニアサイドを破り、セレッソが勝ち越した。
後半に入っても、神戸の方は前半と同じようにチャンスを作っていたので、ルヴァンカップと同じように、5バックにする、という選択肢もあった。しかし、セレッソは両SHの攻守の負担が大きい戦術なので、もし5バックに替えて重心が後ろになってしまったら、そこの負担がさらに大きくなってしまう、そして、切れるカードも減ってしまう、ということで、替えずに我慢した、4バックのまま、体力の落ちてきた柿谷をフレッシュな水沼に替えた、というのが勝ち越しゴールにつながったと思う。

そして、残りの2枚の交代カードは同じく運動量の落ちてきた杉本、清武に替えて澤上、関口を投入。セレッソは最後まで前線の運動量、起点になる力を残したまま、逃げ切りに成功した。

この試合の勝敗を分けた要因は大きく分けて2つで、一つは直前のルヴァンカップでの対戦をどこまで有効活用できたか、という点。セレッソの交代出場の3選手はいずれもルヴァンカップで先発で出ていた選手たちで、彼らがしっかりと存在感を見せた。
神戸の方は、ルヴァンカップの後半で見せていたセレッソのブロックの中で起点を作る攻撃を、この試合の最初では再現できなかったのが痛かった。ルヴァンカップで先発し、この試合では交代で入ったウエスクレイ、田中順也といった選手は存在感を出していたので、前の試合からの継続性が全くなかった、というわけでは決してないのだが、最初の問題点を解決するために一つカードを使ってしまったのと、そこで怪我明けの小川を残したので、小川の交代でもう一枚カードを切る必要があり、最後の勝負所で切れるカードが無くなってしまった。

そしてもう一つの要因は、何といってもセレッソの山村の個の力。
この試合の山村は1ゴール1アシストという活躍だったが、そうした数字以上に、この試合の彼のプレーは際立っていた。元々、トップ下にコンバートされた当初から、ボールが収まる、起点になれる、というプレーヤーだったが、この日は単に起点になる、周りの選手に落とす、というだけでなく、後ろから来たボールを収めて、そこから彼個人の力だけで前を向いてしまう、というプレーを何度も見せていて、決勝点となった水沼へのアシストのシーンも、受けた瞬間は後ろ向きだったのだが、そこから一瞬で反転してクロス、という形だった。
相手を背負っていても、個人の力だけで前を向ける、そういう選手が前線にいると、チームとしては、その選手にボールを預けるだけで攻撃が成立してしまう。これからのセレッソ対策は、まず山村をどうやって止めるか、というところから始まるようになるのではないだろうか。