渡り合うも力及ばず。ACLグループG 第6節 広州恒大 VS セレッソ大阪

日時 2018年4月17日(火)20:01 ※日本時間
試合会場 広州天河体育中心体育場
試合結果 3-1 広州恒大勝利

セレッソはアジアチャンピオンズリーグ(ACL)のグループG最終節で、中国のビッグクラブ、広州恒大と対戦。
この試合時点での獲得勝ち点は広州が9で首位、セレッソが8で2位、ブリーラムが6で3位、という状況。セレッソはこの試合に勝利できれば文句なくグループを1位突破できるが、引き分け、もしくは敗れた場合は、同時刻に行われる済州とブリーラムの試合で、ブリーラムが勝利すると3位となって敗退、という状況である(セレッソが引き分けてブリーラムが勝った場合は勝ち点で並ぶが、当該チーム同士の対戦成績でブリーラムが上位となる)。

セレッソ大阪フォーメーション
18
ドンヒョン
32
亜土夢
34
山田
17
福満
24
山村
38
西本
29
舩木
23
山下
16
片山
20
酒本
27
丹野

この試合のセレッソのフォーメーションは、ヤン・ドンヒョン、山田寛人を2トップに置く4-4-2。グループリーグ突破が掛かる試合ではあるが、メンバーには山田、西本、舩木、酒本と言った、普段のリーグ戦ではほとんど出番のない選手が顔を並べている。ユンジョンファン監督は、過密日程や、怪我人が続出している事情を鑑みて、この試合では柿谷や杉本、山口と言った主力組の大半を帯同させない、という決断を下した。

広州恒大フォーメーション
7
アラン
29
ガオリン
11
グラル
27
ジョンロン
16
フアンボーウェン
8
グデリ
35
リーシュエポン
28
ヨングォン
5
ジャンリンポン
23
ドンハンウェン
19
ゾンチョン

対する広州恒大のフォーメーションはFWアランを1トップに置く4-2-3-1。このアランと、トップ下の11番グラル、ボランチの8番グデリが外国人枠の選手、CBの28番キム・ヨングォンが韓国人、つまりアジア枠の選手である。
そして率いるのはイタリア人監督、ファビオ・カンナバーロ。言わずと知れた、元イタリア代表CBである。

広州のキックオフで始まったこの試合。広州側の最初の狙いは、セレッソの両サイドだった。
広州から見て右サイドから攻撃する場合は、右SHのジョンロンを中に絞らせて、セレッソのCB、SB、ボランチ、SHの間のスペースで、中間のポジションを取らせる。そして、ジョンロンが中に絞って出来たスペースには右SBのドンハンウェンが上がってきて、右ボランチのグデリ、トップ下のグラルも右に流れてくる。そして左ボランチのフアンボーウェンが、カウンターに備えて中央低い位置を取る。
左サイドから攻撃する場合はその逆で、左SHのガオリンが中に入ってきて、その外を左SBのリーシュエポンが回る、そして左ボランチのフアンボーウェン、トップ下のグラルが左に流れて来る。そして右ボランチのグデリが下がる。
そうやってサイドに起点を作っておいて、クロスからゴールを狙う、というのが序盤の広州の形だった。

この試合開始直後の広州の攻勢の時点で、セレッソの選手たちはかなりパニックになっていたのだが、そこは何とか耐えしのいで、これで少し落ち着けるかな、と思った前半6分に失点してしまった。
失点の流れとしては、セレッソの左SBの舩木と左CBの片山の間に走り込んだ広州の右SHジョンロンに、右SBのドンハンウェンから縦パスが出て、セレッソの左SBの裏で起点を作られてしまった、というところが始まりだった。ただ、片山がカバーに入ったので、サイドをえぐられる、というところまでは行かず、後ろに戻させれば良い、という状況だったのだが、左ボランチの山村がボールウォッチャーになってしまっていて、山村の前にいた相手のトップ下のグラルがフリー。山村がグラルを見るか、もしくは、山村は片山が出たCBのスペースを埋めて、自身のポジションはFWの山田に埋めさせる(つまりグラルは山田に見させる)必要があったのだが、意図を感じさせない、中途半端なポジショニングだった。
グラルがフリーになっていたので、ジョンロンからグラルにマイナスのパスが出て、グラルがサイドチェンジ。これを広州の左SBのリーシュエポンが受けて、シュートなのか、ラストパスなのか良く分からないグラウンダーのボールをゴール前に入れると、山下の背後から前に走り込んだフアンボーウェンがこのボールをワントラップして山下の横のスペースに持ち出し、倒れ込みながら左足でシュート。セレッソはGK丹野が飛び出したが、シュートは股の間を抜けてゴールネットを揺らした。

このシーン、セレッソは上述の山村のポジショニングもそうなのだが、全体的に守備の連動が悪くて、例えばラストパスを出したリーシュエポンに対しては右SHの福満が対応したのだが、シュートブロックに行くような対応になっていて、結果的に、福満と右ボランチの西本の間を通されてしまった。必要だったのは自分と西本の間を締める対応で、もしそれで、相手がシュートを、福満の外を巻いてニアポスト側を襲うようなシュートを撃ったとしても、それは丹野が止めれば良い。止められないレベルのシュートが飛んだら、それは相手を褒めるべきだし、相手の実力を考えれば、それが起こる可能性は低い。
西本のポジショニングについてもそれは同じで、福満が出たのであれば、自分は福満に近づいて、間を通されないようにしなければいけない。西本がサイド寄りのポジションを取ると、今度はゴール中央へのパスコースが空いてしまうが、そちらのコースについては山村を自分の方に絞らせれば良い。
また、シュートに対するCB山下とGK丹野の連携も悪かった。シュートの瞬間、まだ山下には相手のシュートコースに滑り込む余地があったのだが、丹野が飛び出したことで滑り込むことが出来ず、対応を丹野に任せる形になってしまった。ここでは丹野は飛び出さず、まず山下にシュートコースを消させる、そこからボールが抜けてきた場合は自分が止める、という対応が必要だった。
こういう守備の連係は、ピッチ上でのお互いの声かけや後ろからのコーチングによって、もっと良い連携ができたはずなので、そこは非常に残念だった。

更に前半8分には、広州の左CBからセレッソの左SBの裏のスペースへ斜めのロングボールが出て、広州の右SH(この時はサイドが入れ替わっていて、ガオリン)に渡る、というシーンがあった。このシーンでは左SB舩木のロングボールに対する反応が遅くて、身体を外に向けて、自分のマークとボールを見ながら対応すれば十分間に合ったはずだが、内向きにターンしたので、ボールからもマークからも目線が切れてしまって対応が遅れてしまい、更にボランチのバイタルへの帰陣も遅くて、結果的に、ガオリンのマイナスの折り返しをシュートされてしまった。枠外に外れたから良かったが、これが決まっていたらもっと一方的な展開になるところだった。

しかしこの直後、前半9分に、セレッソは福満のゴールで同点に追いつく。
左SB舩木がボールを持ち、広州の右SB、右ボランチ、右CBの中間のスペースにポジションを取った山田に縦パス。真後ろからのボールだったので、受け手にとっては難しいボールだったが、山田は半身でボールを守りながら、相手左SBドンハンウェンとのデュエルを制し、相手DFライン裏のスペースに走り込んだ福満にスルーパス。これが見事に通って、最後は福満がGKとの一対一を冷静に躱してゴール。

このゴールは色々な意味で大きかった。一方的な展開になりそうだった中で逆に同点に追いつけた、ということもそうだし、舩木、山田、福満という主力組ではない選手が力を合わせて得点を奪った、ということで、「このメンバーでもやれる、闘える」という雰囲気になった。また福満には、自らのプレーで周りのテンションを上げる、自分が気迫のこもったプレーをすることで、周りを巻き込んでしまう、と言う得難い才能があって、その彼が決めた、ということも大きかった。

福満の同点ゴール以降は、少し落ち着いた試合展開になった。
広州の方はそもそも、セレッソに敗れることさえなければ首位通過。セレッソの方も、引き分けのまま進んで、どこかで勝ち越せれば首位通過。そして、同時刻に行われている済州とブリーラムの試合でブリーラムが勝てなければ、この試合の結果がどうなろうと両チームとも予選突破、ということだったので、慌てずに試合をコントロールしよう、というスタンスに両チームともなったのは必然だった。
ただ、大勢としては広州がボールを持ち、セレッソがそれに対して守る、というところは変わらず、そして、広州の攻撃方法も、冒頭で述べた形と変わらず、つまりSHが中に絞って、SBが上がってくる、というサイドを主体とした攻撃だった。

結局前半は1-1のままスコア動かず、試合は後半へ。
後半開始から、広州はトップ下のリカルド・グラルを下げて2番のリャオリーションを投入。リャオリーションはそのままトップ下に入るのではなく、アンカーの位置へ入り、後半の広州のフォーメーションは4-1-2-3になった。

広州恒大フォーメーション(後半開始時点)
7
アラン
29
ガオリン
27
ジョンロン
16
フアンボーウェン
8
グデリ
2
リャオリーション
35
リーシュエポン
28
ヨングォン
5
ジャンリンポン
23
ドンハンウェン
19
ゾンチョン

交代の理由は、前半のグラルのパフォーマンスを見て、ということと、前半かなり押し込めていたので、寧ろカウンターを受けないように、守備のバランスを取りたいと言うこと、その2点だったのではないかと思う。また既に述べたように、前半から広州はボールサイドのボランチが高い位置を取って、SHとトップ下の近くでプレーする、もう片方のボランチは中央低い位置に残る、と言う形を取っていたので、攻撃の時には4-1-2-3で戦っていた、とも言え、そういう意味では役者が変わっただけだとも言える。
ただし、より適材適所の配役になった、と言う感じはあって、守備が得意なリャオリーションが入ったことで、後半の広州は彼がセレッソのボランチの縦パスをカットしたり、前半に同点弾の起点となった山田をしっかりと潰す、と言うシーンが増えた。

そして後半11分、セレッソはCKから失点。2-1と再度リードを許すことになってしまった。
セレッソから見て左サイドからのCK、蹴ったのは右利きのフアンボーウェンだったので、アウトスイングのボールだったのだが、このボールを山下とガオリンが競ってガオリンが競り勝ち、ボールをゴールエリア内中央にいたアランに落とすと、アランがこのボールを胸トラップでサイドのスペースに流し、体を反転させながら左足でシュート。ボールはGK丹野とニアポストの間を、ポストに掠めながらも抜けて、ゴールに吸い込まれた。
ここでもGK丹野の対応や味方との連携が悪くて、ゴールのファーポスト側には片山が入っていたので、ニア側だけをしっかり切っていれば良かったのだが消しきれていなかった。また、こういう至近距離からのシュートの時は、体のどこかに当たれば良い、という対応をしなければいけない、言い方を変えると、当たる面積を最大化して対応しなければいけないのだが、手を横に広げずに顔の前に出すような対応をしてしまったので、それもニア側にコースが残った一因だった。ビビったんじゃないのか、と言いたくなるような対応だった。

また、失点シーン直前、広州がCKを奪った流れは、左ウィングのガオリンに縦パスを出した左SBのリーシュエポンが、そのままガオリンの内側をインナーラップし、セレッソのSBとCBの間のスペースに走りこむ、それと入れ替わる形でガオリンがカットイン、右足でインスイングのクロスを上げて、これを片山がバックヘッドで外に出してCK、と言う流れだった。
このウィングの内側をSBがインナーラップする、という形は、最近の欧州サッカーで良く見られる形だが、リーシュエポンは、このシーンの直前でも同じようにインナーラップを仕掛けていたので、多分広州の方は、前半は外側から上がるパターンだけだったところを、後半はバリエーションを増やしてきた、ということなのだと思う。そしてそれが、勝ち越しゴールにもつながった。

リードを奪った広州は、後半17分、29番のガオリンを下げて20番ユーハンチャオを投入。ポジションの変更はなく、ユーハンチャオはガオリンのいた左ウィングに入った。
そしてこの時間帯あたりから、徐々にビハインドのセレッソの方が前がかりになり、広州の方がそれに対してカウンターを狙うと言う、試合序盤とは逆の流れになって行った。

セレッソは後半26分に負傷した右SB酒本を下げ、松田を投入。更に後半29分には山田を下げてFW米澤を投入して同点を狙いに行ったが、結局得点は奪えず。逆に後半40分に、勝ち越し点を挙げたFWアランにダメ押しとなる3点目を奪われ、これで万事休した。
セレッソとしては、同時刻に開催されている済州とブリーラムの試合で、ブリーラムが引き分けるか負ける、ということだけが最後の希望だったが、ブリーラムはこの試合に勝利。これによってセレッソはブリーラムの勝ち点を下回ることとなり、グループリーグ3位に転落。決勝トーナメントに進むことなく敗退となった。

最初に書いた通り、セレッソはこの試合に主力組を温存して臨んだ。左SBの舩木やFWの山田、米澤、右SBの酒本と言った選手は、普段のリーグ戦ではベンチ入りすることも少ない選手なので、実質この試合、セレッソは2.5軍ぐらいの陣容で臨んだと言える。
そのようなメンバーになった理由は、過密日程であったり、怪我人が続出していることであったり、この試合の直後にガンバ大阪とのダービーが控えていることであったり、色々理由があるので、主力を温存したことに対して是非を問うことは控えたいが、少なくともこの日のメンバーで広州相手に渡り合えてはいた。
後半20分には田中亜土夢が広州のペナルティエリア内でドリブルで裏に抜け出し、飛び出したGKゾンチョンの手が亜土夢にかかって倒れたかに見えたが、PKは貰えず、というシーンがあった。
そして後半37分にはセレッソのFKのセカンドボールを広州のGKゾンチョンとセレッソの福満が競り合った際にゾンチョンが痛めて倒れてしまい、セレッソはGKのいなくなったゴールにシュートを撃って決めるだけだったのだが、決めきれず、というシーンもあった。
このどちらかでも決められていれば。そして既に述べたように、1失点目と2失点目は、いずれもGKの対応が悪かったり、DFとの連携が出来ていなかったことによって喫した失点だったので、このどちらかでも防げていれば。結果は逆だった。この試合を10回繰り返したとしてもセレッソが10回とも負けるだろう、というような試合ではなかった。
しかし残念ながら、セレッソの2018シーズンのACLへの挑戦は、ここで終わることになってしまった。